
フィルムカメラには、デジタルカメラにはない、さまざまな魅力があります。
やわらかく温かみのある写りや持ち歩くのが楽しくなるモノとしての魅力、写真が仕上がるまでのワクワク感など、デジタル全盛の現代もその魅力は色あせていません。そんなフィルムカメラは、「カメラに興味があるけど手を出せていない」というカメラ初心者、なおかつ40代男性の新しい趣味としてもおすすめです。
そこで今回は、「カメラのナニワ心斎橋本店」の池田高博さんにインタビュー。フィルムカメラとデジタルカメラの違い、フィルムカメラの魅力、注目のフィルムカメラについて詳しく語っていただきました。
池田高博
関西を中心に、全国に27店舗、海外に1店舗の営業所を持つ「カメラのナニワ」で、小売事業部の課長を担当。カメラのナニワ心斎橋本店の販売員として、20年以上に渡って多種多様なカメラの販売・買取に携わる。心斎橋本店のカメラレビューブログを担当しており、最新デジタル一眼レフカメラからフィルムカメラまで、心斎橋本店に集まるあらゆるカメラ・レンズを実写。豊富な知識に裏付けられた丁寧な接客が持ち味の、カメラのプロフェッショナル。文部科学省後援フォトマスター検定1級保持者。URL:https://www.cameranonaniwa.co.jp/
※以下はすべて、池田さんのインタビュー内容です
フィルムとデジタルの違いは「フィルム」か「センサー」か

フィルムカメラについてご説明する前に、まずはフィルムカメラ・デジタルカメラの違いについて簡単にご紹介します。この2つは、記録媒体が「フィルム」か「センサー」かが異なるだけで、仕組みはほとんど同じです
「フィルム」か「センサー」かでどのような違いが生まれるかというと、センサーは撮影直後に写真が確認でき、削除することもできます。反対にフィルムは、現像するまで写真を確認することができず、削除もできません。
利便性や手軽さという点で優れているのは、やはりデジタルカメラです。しかし、それでもフィルムカメラを使う人がいるのは、たくさんの魅力があるから。現在でも多くのお客さまがフィルムカメラを目当てにお店に訪れ、デジタル全盛の現代でもそのニーズが衰えたことはありません。
初心者にもおすすめ。フィルムカメラで「撮る喜び」と「持つ喜び」をより深く
フィルムカメラの魅力を4つに分けつつ、40代のカメラ初心者におすすめしたい理由をご紹介します。
魅力1.フィルム特有のぼんやりとしたやわらかな仕上がり
フィルムカメラの一番の魅力は、やわらかな仕上がりの写真が簡単に撮れること。人物・モノ・風景など、被写体に関係なくフィルムカメラで撮影した写真には、デジタルには出せない独特の味わいがあります。
最近では、フィルムに近づける機能を搭載したデジタルカメラやフィルムっぽく写真を仕上げるフィルターなど、デジタルで“フィルムのような写真”を撮影する技術が登場していますが、完全再現には至っていません。
ノスタルジーを感じさせるぼんやりとしたやわらかな仕上がりは、フィルムカメラならでは。手軽に雰囲気の良い写真が撮れるので、実はカメラ初心者にもおすすめ。最近は、お子様の成長記録としてフィルムカメラを選ばれるお父さんも増えています。
魅力2.レトロでアンティークな雰囲気。「持つ喜び」を感じられる
現在フィルムカメラは中古品しかありません。(※一部現行品もあります)スマートな最新のデジタルカメラとは異なるレトロなデザインが特徴で、それに惹かれてフィルムカメラを選ぶお客さまも多くいらっしゃいます。重厚感のある造りやレトロなデザインは、オトナな雰囲気にもぴったりだと思います。
また、心惹かれるデザインのものを選べば、自然に撮影回数が増え、上達スピードも速くなります。店頭でも、初心者のお客さまには「持ち歩きたくなるカメラを選ぶのが良いですよ」とお伝えしています。「持つ喜び」をより強く感じられるフィルムカメラは、撮影技術が上達しやすいという点でも魅力的です。
魅力3.撮影プロセスを味わう。失敗すら味わい深いフィルムカメラ
サクッと撮って雰囲気の良い写真に仕上げられるだけでなく、じっくりとこだわって撮影できるのもフィルムカメラの魅力のひとつ。撮り直しが容易なデジタルカメラよりも1枚を撮るのに慎重になるため、「自分の力で撮った」という実感をより強く味わえます。
私はフィルムカメラで滝を撮影するのが好きなのですが、どこからどのように撮れば最も美しく映えるのか、シャッターを押す前にじっくりと考えます。ファインダー(被写体を覗く穴)越しに、「ここだ!」という撮影場所を見つけ、明るさとピントを慎重に合わせて、シャッターを切る。このような、「どう撮るか」を考える時間が、「自分の力で撮った実感」を高めてくれます。
▲池田さんが撮影した滝の作品
また、現像に出してから写真を受け取るまでの間、仕上がりを想像するのもドキドキ感がありますし、イメージ通りの写真が撮れていたときの喜びはフィルムだからこそ味わえるもの。
また、被写体がブレたりピントが外れたり、撮影に失敗しても独特の味わいになるのがフィルムカメラのおもしろいところ。意図とは違う写りでも「こんなふうに撮れるとは!」と驚くことも少なくありません。不完全さや偶然を楽しめるのもフィルムカメラの魅力で、初心者でも存分に楽しむことができますよ。
魅力4.壊れにくい頑丈なボディ。価格が手頃でリーズナブルなのも魅力
ここまでご紹介した3つの魅力に加え、壊れにくく、モノによっては一生使い続けられるのもポイント。3万円~5万円ほどのご予算があれば、一生ものになりえる質の良いフィルムカメラが手に入ると思います。
最新のデジタル一眼レフやミラーレスを揃えると10万円以上のお金がかかりますが、フィルムカメラはよりリーズナブル。高級なイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、意外と趣味として始めやすい手軽さも兼ね備えているんです。
フィルムカメラを長く楽しむためには?
さまざまな魅力があるフィルムカメラ。ちょっとした工夫で、その魅力をより長く楽しめます。
そこで、フィルムカメラをより長く楽しむためのコツについてご紹介します。
まずは持ち歩くことを習慣に
「持つ喜び」のところでも少し触れましたが、フィルムカメラを長く楽しむには、「持ち歩くのを習慣にすること」が大切です。カメラを持ち歩く癖をつけ、失敗も含めて楽しみながら撮影を繰り返しましょう。そうすれば、おのずとスキルが上がっていき、撮影がさらに楽しくなっていきます。カメラを持ち歩くことが習慣になれば、撮りたいシーンに出会ったときにシャッターチャンスを逃すこともありません。
テーマを持つことが、撮影のモチベーションにつながる
何かテーマを持って撮影するのも、フィルムカメラを楽しむポイントのひとつです。街・家族・ペットなど、テーマは何でもかまいません。テーマを持てば、「時間を変えて撮ってみよう」「季節を変えると雰囲気がまた違うかも」など、撮影のアイデアが浮かびやすく、写真を撮るモチベーションも維持しやすいと思います。
私の場合は兵庫県北部の但馬地方と滋賀県の琵琶湖をテーマに掲げていて、もう十年以上も通い続けて撮影しています。
▲湖と美しい木が映える。池田さんのフィルムカメラの作品
使いたくなるカメラ、自分に合ったカメラを選ぶこと
フィルムカメラには「モノ」としての魅力があるとご紹介したように「持ち歩きたくなる・写真が撮りたくなる」カメラを選ぶことが、撮影を続ける最大のモチベーションになります。こればかりは、自分の心と相談するしかありません。どのようなカメラに心が惹かれるのか、フィルムカメラを選ぶ際にじっくりと吟味してみてください。
また、撮りたいものとカメラの機能がマッチしているかも重要です。予算・撮りたいモノを含めて、専門店で相談してみると良いでしょう。予算や目的に合致した選択肢の中から、直感的に心惹かれるカメラがあれば、それを選ぶのがベストです。
入門機からマニアックな逸品まで。持つのも撮るのも楽しい5つのフィルムカメラ

では、ここからは初心者におすすめのフィルムカメラをご紹介していきます。
40代男性の男心をくすぐる、5つのカメラをセレクトしてみました。
Rollei 35(ローライ35)
Rollei 35(ローライ35)は、1976年にドイツのローライから発売された史上トップクラスのコンパクトカメラ。手のひらサイズで、カバンの中に入れても邪魔にならないため、持ち歩く負担をほとんど感じません。
▲フィルムカメラとしてはトップクラスの手のひらサイズ
コンパクトなだけでなく、描写力にも優れているのがポイント。パッとカバンから取り出してシャッターを押せば、子供との散歩など、日常の何気ないワンシーンを味わい深い瞬間として記録できます。また、フィルムを巻き上げるメカニックな音やシンプルでギミック感がある見た目も男心をくすぐるのではないでしょうか。
Nikon F3 HP
Nikon F3 HPは、Nikonフィルムカメラの最上位機種のひとつ。発売当初から人気があり、製造数が多いため現在では手頃な価格で購入できます。頑丈かつ、初心者にも優しい操作性で入門機にぴったり。
レンズのバリエーションが豊富で、単焦点の明るいレンズもラインナップされているため、例えば背景ボケをキレイに出す撮影なども手軽におこなえます。
Nikon F3 HPは、戦場カメラマンにも愛用されていた機種で、ボディの頑丈さは折り紙付き。使いやすく、壊れにくく、撮りやすい、1台目としてぴったりなカメラだと思います。重厚感のある質感やデザインも男らしく、40代男性にも人気の逸品です。
Canon EOS-1V
Canon EOS-1V は、Canonのフィルムカメラの最後のモデルで、デジタルカメラのようなオートフォーカスの機能が搭載されています。信頼できるボディは雨や雪といった悪天候でも心配いらずのため、風景写真をじっくり撮影したいという方にもってこいの1台です。
発売当時は多くのプロのカメラマンも使っていて、価格は20万円以上しましたが、今は5万円ほどで購入できます。本格派をめざす方におすすめです。また、レンズはデジタルカメラの現行品と共有できるので(一部除く)、Canonのレンズをお持ちの方は、こちらのカメラでも使用できます。
PENTAX 645NⅡ
PENTAX 645NⅡは、フィルムの面積が大きいロールフィルム(ブローニー)で撮影する「中判カメラ」。とにかく画質が良いのが特徴です。当時は、風景写真家も愛用していて、プリントされた写真には吸い込まれそうな迫力があり、大きく印刷するとその場にいるかのような錯覚を覚えるほど。風景の写真をリビングや寝室に飾りたいという方におすすめの1台です。
こちらもオートフォーカス搭載。重厚感のある男らしいカメラで、メカ感が好みの方にはたまらないデザインだと思います。こういうマニアックな逸品からフィルムカメラを始めるというのもおもしろいかもしれません。私も風景写真を撮影するときは、こちらを愛用しています。
Leica M6
最後に、カメラ好きなら誰もが1度は憧れる、ドイツが誇る名門カメラメーカー「Leica」もご紹介しておきましょう。Leica M6は、露出計が内蔵されているモデルで、適正露出を確認しながら撮影ができるため失敗が少なく、初心者にもおすすめ。
価格は今回ご紹介したものの中では一番高いのですが、Leica純正レンズと組み合わせたときの描写力は感動すら覚えるレベル。機能を突き詰めた洗練されたデザインも魅力で、「写真を撮りたい・持ち歩きたい」というモチベーションを最大限まで引き上げてくれます。「一生使える“生涯の1台”を」という方に、ぜひ検討してほしい名機です。
「スロウなひとときと味わい深い思い出」を
フィルムカメラには、スピーディーな時間の流れを少しだけスロウに変化させてくれる、魔法のような力があります。被写体をじっくり眺め、明るさとピントを調節し、ゆっくりと吟味しながらシャッターを切る。そんなフィルムカメラに触れている時間は、日々の貴重なリラックスタイムになるはずです。
また、時間をかけて撮影した1枚が、味わい深い思い出になるのもフィルムカメラの魅力。
ここぞというシーンだけは、デジタルカメラでもスマホでもなく、フィルムカメラで撮影しましょう。そうすれば、大好きな風景や家族の表情が、いつまでも色あせない写真として残り続けます。
「忙しい毎日に少し疲れ気味」
そんなときは、ぜひフィルムカメラのファインダー越しに、ゆったりと日常を眺めてみてください。
ライター:権藤将輝
編集:児島宏明