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映画から学ぶヒーロー養成講座 ~かっこいい大人の男とは~  

2016/07/26

牧口 じゅん

映画ライター

牧口 じゅん

通信社、映画祭事務局勤務、映画サイトの立ち上げを経て映画ラ…

vol.4「仲間に絶対的な信頼を寄せる男 『ニュースの真相』」
「ペンは剣よりも強し」

19世紀に活躍したイギリスの政治家で小説家でもあったブルワー・リットンの戯曲『リシュリュー』に登場する有名な言葉です。言論が持つ正義の力を見事に言い当てた表現で、TVジャーナリズムが登場してからは、もちろん報道番組における“声”も、ペンと同じ力を持ったと言えるでしょう。

 

今回ご紹介するのは、アメリカのTV業界を舞台に、とあるスクープ報道をきっかけに勃発した騒動の裏側を描いた『ニュースの真相』。“声”の力を信じる者たちの物語です。

 

米国最大のネットワークを誇る放送局CBSの「60ミニッツII」といえば、イラクのアブグレイブ刑務所での捕虜虐待事件のスクープほか、輝かしい功績を残している名物ニュース番組。同番組の看板アンカーマン、ダン・ラザーは同番組の敏腕プロデューサー、メアリー・メイプスとは信頼で強く結ばれていました。そんな二人が、次に狙ったのは、2004年当時、民主党のジョン・ケリーを対抗馬に、再選を狙って大統領選を繰り広げていた共和党のジョージ・W・ブッシュ米大統領が、軍歴を詐称していたというスクープ。信頼する取材スタッフとともに、2人は情報提供者から受けとった資料の裏付け調査を進め、紆余曲折を経て事実だと確信し、ついに放送に漕ぎ着けるのです。

現政権を揺るがすほどの大スクープに祝杯を挙げる仲間たち。ところが放送後、ネット上で保守派たちが文書は偽物だと騒ぎ始めます。局の上層部は、メアリー、ダンほか、スタッフたちに再調査を命じますが、このときすでに世間は「誤報」と大騒ぎしていて、もはや収集がつかなくなっていたのです。

 

映画では、メアリーやダンたちが使命感とプライド、覚悟をもって権力を監視しようとする真摯な姿が描かれていきます。恐れずひるまず権力に立ち向かう様子には、ジャーナリズムのあるべき姿、良心が見て取れるのです。一方、世間そして視聴者の顔色を伺う局上層部は、ブッシュ大統領の軍歴詐称という重大な本筋から外れ、情報となった文書の真偽のみに興味を示していきます。それ以外の、あらゆる信憑性を無視したことで、大切なものを失っていくのです。失ったものとは“真実”や“真実を追求するチャンス”だけにとどまりません。この騒動を機に、メアリーは報道の第一線から退きました。ジャーナリズムは、そして正義を求める市民たちは、大きな財産を失ったのです。

 

彼女の相棒ダン・ラザーは30年以上番組を続けてきた、視聴者の信頼も厚いアンカーでした。劇中、メアリーは自らの行く末よりも、頼れる仕事のパートナーであり、時に父のような存在でもあったダンの晩節を汚し、不名誉なレッテルを貼ってしまうことを何よりも恐れている様子でした。そんな彼女にダンは「私のことは気にしなくていい。自分のことを考えるんだ」と言います。そして、「60ミニッツII」を降板する決断を下したことを告げ、メアリーがショックで泣き崩れたときも「君のせいじゃない」と彼女を思いやり、一切恨みごとは言わないのです。

 

人は窮地に立たされた時こそ度量が分かるもの。仕事をする仲間を信じるのは当たり前。一度、信頼したのなら、何があってもそれを受け入れる。至極当然のことのようですが、ダンがメアリーに、そして仲間に寄せる信頼が垣間見えるたび、同じような状況に陥ったとき、自分はどうするだろうかと考えずにはいられませんでした。

終盤、問題の文書を入手した張本人であるメアリーは、ダンにある質問をします。「みんなが私に問いただしたのに、あなただけは一切そうしなかった。“あの文書は本物か”って。どうして?」と。ダンから帰って来た答えは、とても心に響くものでした。ここではあえて伏せますが、すべては“信頼”のなせるわざ。誰もが彼女を責める中、ダンをはじめチームの仲間だけは、彼女を責めませんでした。例え社会的責任は取らされようとも、それがどれほどメアリーにとって大きな励みになったことか。本作は、有名なスクープ騒動の裏側について語られた興味深い物語であるだけでなく、信頼できる仲間を得ることの心強さを痛感できる映画でもあるのです。

 

父から虐待を受けていたメアリーにとって、ダンは最も身近にいたヒーローだったのかもしれません。そして、最後までヒーローであり続けたのです。当たり前だけれど、なかなかできないことを、きちんとやっていく人。メアリーに「君の熱心な仕事ぶりには感謝している」と言葉をかけ、1人で責任を負おうとしている彼女の重荷を、ともに背負おうとしてくれる人。仲間のためには、業界の頂点から奈落の底に落ちることもいとわない人。考えてみれば、ジャーナリズムとは常にリスクと隣り合わせで、大きな権力に向かって行くことを恐れない覚悟を持っていなければ、入っていけない世界なのかもしれません。きっとダン・ラザーとは、その覚悟を持って生きてきた人なのでしょう。

 

最後に出演した「60ミニッツII」でダンが残した言葉にも、胸が熱くなりました。
「真実を伝えるためにリスクを冒すことを恐れないジャーナリストたちに勇気を。」
失敗を恐れ、反撃にひるんでいては、大切なものを失ってしまう。この騒動がジャーナリズムの終焉を招かないよう、“ペン”そして“声”の力を信じる同志たちを鼓舞したこの言葉は、彼の英雄性を確信させるもの。仲間と共に目標に向かうすべての人々に、見てもらいたい作品です。

■タイトル:『ニュースの真相』
■公開情報:8月5日、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次ロードショー
■配給:キノフィルムズ

 

ストーリー:

2004年4月、20年のキャリアを持つCBSニュースのプロデューサー、メアリー・メイプスは、イラクのアブグレイブ刑務所で行われていた虐待事件を他局に先がけてスクープ。担当の調査報道番組「60ミニッツII」で放送し、ベテランのアンカーマン、ダン・ラザーら仲間とともに祝杯をあげていた。数日後、早くも次のテーマを探していたメアリーの元に、ある情報が届く。それは、4年前にも追っていたものの、放送に至らなかったジョージ・W・ブッシュ大統領の軍務怠慢、ベトナムへの派兵逃れ、早期除隊などを裏付ける、軍の内部文書だった。これが事実なら、公表されている軍歴とは異なり、現在行われている大統領選でのブッシュの再選に赤信号がともる。チームを結成したメアリーは関係者に取材を行い、事実確認を行い、晴れて放送に漕ぎ着けるが……。

 

キャスト&スタッフ:
監督:ジェームズ・ヴァンダービルト
原作:メアリー・メイプス「Truth and Duty: The Press, The President, and The Privilege of Power」
出演:ケイト・ブランシェット/ロバート・レッドフォード/エリザベス・モス/トファー・グレイス/デニス・クエイド/ステイシー・キーチほか

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