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cinema column chapter 2.大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/06/20

牧口 じゅん

映画ライター

牧口 じゅん

通信社、映画祭事務局勤務、映画サイトの立ち上げを経て映画ラ…

「大人の恋に必要なのは、ちょっと粋な強引さ。『ボンジュール、アン』」

男性が草食化したと言われて久しいですが、恋愛については奥手で臆病な人が着実に増えているようです(個人調べ)。女性が社会的地位を手にして強くなり、経済的にも自立できるようになったことと、おひとり様女性が増えていることに関連性があると言われてはいます。とはいえ、強く相手に アプローチできない弱腰男性が増えたこととも、大きな関わりがあるのではあるまいか。映画『ボンジュール、アン』を観ていてしみじみそう思いました。

 主人公のアンは、子育てを終え、人生に一区切りをつけた大人の女性。長年連れ添った夫は、世界的に名の知れた映画プロデューサーで仕事人間。妻には無頓着です。あるとき、夫の仕事仲間 であるフランス人男性に、カンヌからパリまで車で送ってもらうことに。ところが7時間で到着するは ずの行程が、なぜか寄り道だらけの2日間の旅となってしまうのです。

そのフランス人男性は、アンの周りにはいないタイプ。ちょっと車で走っては、「美味しいレストランがある」「素晴らしい景色の場所がある」「遅くなったから宿に泊まろう、あ、その宿には美味しいレストランがあるよ!」などといっては、車を止めます。そして、「パリはどうするの?」と聞いたアンに言ったのが、「Paris can wait.(パリは待ってくれるよ)」。実はこれが原題となっています。

二人の様子を観ていて思ったのは、やはりいつの時代でも、女性はある程度ぐいぐい迫られることに弱いのだということ。大人の男だけが持つ余裕が生み出すウィット、そして人生を楽しむための知識を強みに、フランス男はアンを引っ張りまわします。最初は、迷惑そうなアンですが、そこはさすがラテンの男。憎らしいぐらいに勧め方が粋なのです。そうこうするうち、アンは彼が見せてくれる人生の新たな喜びに引き込まれていきます。美しい景色、美味しい食事とワイン、尽きることのない愉快な会話、つつましい好意、そして抱えきれないほどの花……。

 

さらには、「僕は無害だよ」という顔をしながらも、要所要所でキレイだと褒めちぎる。そう言われて 悪い気がする女性などいないはず。誰かの妻でもなく、誰かの母でもなく、仕事の肩書とも関係なく、一人の女性として扱われることは、大人の女性にとって最大の賛辞なのです。

そんな女心を本能で感じているフランス男は、人生の楽しさを披露しながら、あなたにはこれだけの喜びを享受する価値があるのだと、言葉にすることなくアンへと伝えていきます。これこそ、大人の恋の正攻法かもしれません。恋から少し遠ざかっている大人の女性は、ちょっと臆病で疑り深いことも。ダイレクトに口説くのではなく、僕と一緒にいるとこんなに楽しいことがあるよと、行動で示すほうが得策です。それもちょっと強引に。守りに入っている大人の女性に「これからの人生、この人と一緒なら今以上に輝くかも」と思わせたら勝負あり。そのためには、ユーモアとセンスにあふれた粋な計らいと、このフランス男のような、ちょっとの強引さがときには必要なのです。ちなみにこの種のぐいぐい感、日頃恥ずかしくて気持ちを伝えられないパートナーにも有効かもしれませんよ。

■タイトル:『ボンジュール、アン』
■公開:2017年7月7日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
■配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
■著作:the photographer Eric Caro

 

ストーリー:
国際的なフィルム・フェスティバルが行われているフランス、カンヌ。子育ても一段落したアン(ダイアン・レイン)は、長年連れ添った映画プロデューサーの夫(アレック・ボールドウィン)と映画祭にやってきた。ところが、いつものように仕事にかかりっきりの夫は、妻には無頓着。その日は飛行機で移動する予定だったにもかかわらず、ひどい耳の痛みに悩まされていたアンは、夫の仕事仲間(アルノー・ヴィアール)の申し出により、彼と二人きりでパリまで車で向かうことに。ところが、何かと寄り道したがる彼に振り回される始末。でもそれが、アンにとっては人生を再び輝かせるきっかけとなり……。

 

キャスト&スタッフ:
監督・脚本: エレノア・コッポラ
出演:ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィンほか

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