HOME > 社 会 > カルチャー > cinema column chapter 2 大人の胸を熱くする恋愛映画

cinema column chapter 2 大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/08/19

牧口 じゅん

映画ライター

牧口 じゅん

通信社、映画祭事務局勤務、映画サイトの立ち上げを経て映画ラ…

「同じ方向を見て共に歌う、そんな大人の愛を。『ギフト 僕がきみに残せるもの』」

“NO WHITE FLAG”、「あきらめない」。これは、難病ALS(筋委縮性側索硬化症)患者たちの支援を行っている米の団体“チーム・グリーソン”の合言葉です。創設者は、自らもALSを患うスティーヴ・グリーソン。日本でも注目を集めたアイス・バケツチャレンジによる啓蒙活動の発起人となった人物です。アメリカンフットボール好きにはお馴染みの名前でしょう。

グリーソンは、全米でも記憶に残る活躍をしたNFLの元スター選手。ドキュメンタリー映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』は、現役引退後に難病を宣告された彼が、ALSと診断され余命宣告をうけたのち、撮影し始めたビデオレターが基になっています。それは、愛する妻との間に授かった第一子に贈るためのもの。とはいえ、本作は難病にスポットを当てているのではありません。テーマは父と子、そして家族。彼を支え続ける最愛の妻ミシェルとの愛の物語でもあるのです。

映画は、「ロン毛のNFL選手なんて嫌な感じ」という印象を持っていたミシェルが、「実は彼って知的で素晴らしい人!」と気づくというエピソードから始まります。そして晴れて結婚式を迎えた二人は、前日の夜、牧師にこう伝えたといいます。

 

「私たちは、一緒で幸せだから、明日は土砂降りでも平気」

それに対し牧師は、彼らにこんな言葉を贈ります。

 

「順調な時に愛し合うことは簡単。困難に直面した時に二人は試されるのです」

残念なことに、二人は結婚からわずか3年後、大きな試練に直面することになります。「病める時も、健やかなる時も」という結婚の誓いそのままに。

ALSとは、意識や味覚、聴覚はそのままに、運動機能だけが徐々に失われていく過酷な病。その現実に打ちひしがれながらも、グリーソンは前向きに、そして時に「妻をひとりにしたくない」と泣きながら日々を生き抜きます。記憶に残るスター選手から、白旗を挙げず病気と闘うリアルなヒーローへ。世界から英雄視される陰で、人の手を借りなくては何もできないという現実とのギャップに苦しむ場面も。彼に寄り添うミシェルにも、看護は重い負担となってのしかかりますが、それでもグリーソンに終始寄り添い、夫の選択を静かに受け入れるミシェルの姿を観て、本当の意味で支え合うことの意味を考えました。

ミシェルが見せた大人の愛とは、どんなときも夫の味方でいること。いつも優しくできるわけではありませんが、彼が大きな決断を下すとき、それがどんなに辛くても支持します。それは向かい合うというより、二人で同じ方向を見る、そんな愛。第一子リヴァースが生まれたとき、彼らは歌を歌います。一人が歌うと、その続きをもう一人が、というように交互に歌うのです。その様子から、大人の愛とは一緒に歌を歌うことと似ているのかもしれないと感じました。声がかすれることもある、一人の声が大きすぎてもうひとりの声をかきけすこともある。それでも、歌い続ける。相手の呼吸や息遣いを感じながら、時にソロで、時にハーモニーを奏でながらひとつの歌を完成させる。そんな人生を歩む二人の愛に、ぜひ触れてみてください。

■タイトル:『ギフト 僕がきみに残せるもの』

■公開:8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷他にて全国順次ロードショー

■配給:トランスフォーマー

■著作:©  2016 Dear Rivers, LLC

 

ストーリー:

ハリケーン“カトリーナ”が襲ったニューオーリンズ。地元のフットボールチームであるセインツが、災害後に初めて行われたホームゲームで、スティーヴ・グリーソンは、劇的な勝利に貢献し、語り継がれる選手となった。引退後、ALS(筋委縮性側索硬化症)と診断されたスティーブは、日々、運動機能が失われていくことに愕然とし、生まれてくる子供に、できるだけ自分のことを知ってもらいたいと、愛情をこめたビデオレターを残すことに決める。進行する病について、自分の変化、妻への愛、息子への想い、そして人間として学んでほしいこと、さらには確執のある自らの父との関係、などについて素直な思いを語っていくが……。

このキュレーターの他の記事を読む

cinema column chapter 2.大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/10/25

「大人の愛と未熟な恋。ギャグの中に見える恋愛の真実!?『斉木楠雄のΨ難』」 「壮大な歴史ロマン」とか、「感動巨編」「ハンカチをお忘れなく」「衝撃のエンディング」とか、さまざまなキャッ…

cinema column chapter 2.大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/09/11

「愛を渇望する女の陰に、大人の男の静かなる愛。『愛を綴る女』」 男女が剥き出しの感情でぶつかり合う。今回は、そんな大人の恋愛映画はもはやお家芸であるフランスから届いた作品『愛を綴る…

“cinema column chapter 2. 大人の胸を熱くする恋愛映画 “

2017/07/22

「夏休みにぴったりの家族エンターテインメント。 もちろんそこにも、大人の愛が見え隠れ。『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』」 ロマンティックな大人の恋愛映画をご紹介することを本…

cinema column chapter 2.大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/06/20

「大人の恋に必要なのは、ちょっと粋な強引さ。『ボンジュール、アン』」 男性が草食化したと言われて久しいですが、恋愛については奥手で臆病な人が着実に増えているようです(個人調べ)。女…

cinema column chapter 2.大人の胸を熱くする恋愛映画

2017/05/22

ぶつかり合ってこそ、珠玉の恋。『光』 今回から、“大人の恋愛”をテーマに、連載させていただきます。スタートにあたり考えたのが、「大人の恋愛ってなんだろう」ということ。互いの領域を侵さ…

映画から学ぶヒーロー養成講座  ~かっこいい大人の男とは~

2017/03/25

ヴィゴが熱演。子供と部下を育てる厳格な男とは。『はじまりへの旅』 父親の威厳が失墜したと言われて久しい昨今。ですが、ここにいました!父親らしい男性が。『ロード・オブ・ザ・リング』シ…

映画から学ぶヒーロー養成講座  ~かっこいい大人の男とは~

2017/01/22

「妻のすべてを受け止めるヒーローをブラピが熱演 『マリアンヌ』」 ブラッド・ピットといえば、ハリウッドいえ、世界を代表するいい男。昨年は、残念ながらプライベートでのトラブルが話題に…

映画から学ぶヒーロー養成講座  ~かっこいい大人の男とは~

2016/11/24

「誰かの“永遠のヒーロー”であれ 『私の少女時代-OUR TIMES-』」 女性にとって、永遠のヒーローとは初恋の相手なのかもしれません。そんなことを思わせる、素敵な映画が台湾から届きました。…

映画から学ぶヒーロー養成講座  ~かっこいい大人の男とは~ 

2016/09/24

Vol.5「自らの過去にケリをつける男 『ジェイソン・ボーン』」 お馴染み、スパイ映画の金字塔、ジェイソン・ボーンシリーズが返ってきました!記憶を失ったジェイソンが、わけもわからず命を…

映画から学ぶヒーロー養成講座 ~かっこいい大人の男とは~  

2016/07/26

vol.4「仲間に絶対的な信頼を寄せる男 『ニュースの真相』」 「ペンは剣よりも強し」 19世紀に活躍したイギリスの政治家で小説家でもあったブルワー・リットンの戯曲『リシュリュー』に登場す…

映画から学ぶヒーロー養成講座~かっこいい大人の男とは~

2016/05/21

vol.3「良きライバルであれ  『二ツ星の料理人』」 あなたには、良きライバルと呼べる人がいるでしょうか。困った時、苦しい時、あいつだったらどうするだろうと思えて、生きる指針にもなって…

映画から学ぶヒーロー養成講座~かっこいい大人の男とは~

2016/03/20

vol.2「一途に愛する男、一途に演じる男『レヴェナント:蘇えりし者』」 ついに、やっと。   まさに、そんな想いが頭をよぎったレオナルド・ディカプリオのオスカー受賞。映画界最大の祭…

映画から学ぶヒーロー養成講座~かっこいい大人の男とは~

2016/01/28

vol.1 「知性と教養こそが大人の武器 『スティーブ・ジョブズ』」 『007』シリーズのジェームズ・ボンド、『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカー……映画には、実に多くのヒ…