「壮大な歴史ロマン」とか、「感動巨編」「ハンカチをお忘れなく」「衝撃のエンディング」とか、さまざまなキャッチフレーズがつけられる映画。でも、そんな謳い文句を信じて映画館に出かけてみたはいいけれど、広げられた大風呂敷が一向にきちんとたたまれることもなく、腑に落ちないまま劇場を後にするなんて経験ありませんか?わざわざ出かけていくのですから、期待したいのは当たり前。ならば、“ただひたすらに笑える”という意味で、絶対に外さない作品はいかがでしょう。『斉木楠雄のΨ難』には、感動も、葛藤も、愛も、教訓も、カタルシスだって当然ない。ひたすら怒涛のギャグにさらされる、笑激エンタテインメントなのです。

主人公の楠雄は、高校生。生まれながらにとんでもない超能力の持ち主。でも、普通の暮らしに憧れ、目立たないように生きています。ところが、彼の周囲には災難ばかりが巻き起こって…という学園もの。しかも、超がつくほど奇妙な人間ばかりが集まってしまうのも、彼の“引き寄せ力”(有難くない……)。そんな不思議ワールドを創り出す、キャストたちの渾身の演技がまた見もの。イケメンたちの爽快なほどのタガの外れっぷりとか、橋本環奈の奇跡の変顔とか、ここでしかお目にかかれそうもない見どころがいっぱい。針の振り切れた俳優陣の演技やとぼけすぎた展開を見ていると、キャストたちが思い切り楽しんでワルノリしている様子も感じられて、こちらまで楽しくなってくるのです。

そんな映画ですから、お伝えしている通り愛も感動もありません。ところが、楠雄の両親のバカップルぶりや、楠雄に感心を抱く美少女・照橋心美さんのひとりよがりな本音を目の当たりにし、笑いの中にある“恋愛の真実”にはっとさせられたのです。
楠雄の両親は、お互いが大好き。「くーちゃん(楠雄)可愛い、ママ(パパ)の次に」と言い切るほど“つれ合いファースト”主義。かなりの不思議ちゃんであるママ&パパですが、相手に対して「こうあるべき」とか「こうしなきゃダメ」というモラハラ要素が一切なく、互いをありのまま受け入れています。これぞ大人の愛。楠雄に対しても寛容で、子供の頃から超能力が顕著だったにもかかわらず、決してネガティブに捉えないのです。

一方、自己を満足させようとする独りよがりな思いに溢れているのが、美少女同級生の照橋。彼女は、男子が自分に好意を抱かないはずはないという自論のもと、自分に無関心な楠雄のそっけない態度を「テレ」や「緊張」だと勝手に解釈。相手の本心を受け入れることができずに、つきまとい、キメ顔、キメポーズを繰り出しまくるのです。「身の程知らずの恋をしてもいいのよ」という自意識過剰な女の本音まで、楠雄がテレパシーでキャッチしているとも知らず。恋ともいえない、執着とか意地なのでしょう。

相手をどう受け入れるか、ということは常に恋愛に立ちはだかる課題。大人の愛と、未熟な恋を目の当たりにして、自分はどちらなのか考えてみるのもありなのです。とはいえ、本作の本題は楽しむこと。笑うことは免疫機能を活性化させるとか。きっとアンチエイジングにも最適ということで、ひたすら笑ってすっきり気分で劇場を後にしようではありませんか。

■タイトル:『斉木楠雄のΨ難』(さいきくすおのサイなん)
■公開:全国公開中
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント=アスミック・エース
■著作:© 麻生周一/集英社・2017映画『斉木楠雄のΨ難』製作委員会

ストーリー:
斉木楠雄は、ごく普通の両親から生まれたにも関わらず、テレポート、千里眼、テレパシー、サイコキネシス、瞬間移動など、とんでもない超能力を備えた高校生。目立たず普通に生きていきたいのだが、そのチカラゆえに、人々を、さらには地球を数々の災難から密かに救う毎日を送っている。さらに、クラスメイトはトラブルメーカーばかり。今年も、毎年恒例の文化祭が近づくが、変り者の友人たちのせいで楠雄には次々と災難が降りかかる。しかも能力を使いたときに、なぜか楠雄を気に入ってしまった学園一の美少女がまとわりついてくる。気がつけば、文化祭が地球滅亡の危機を引き起こそうとしていて――。
