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ニューヨークで、ジャズと暮らすこと

2017/11/26

渡部 晋也

舞台写真家、音楽ライター

渡部 晋也

ジャズから中南米やハワイの音楽。さらに日本の伝統音楽まで幅…

ジャズの都、ニューヨーク。この音楽を志すものなら一度は憧れる地で活躍するシンガー、ERIKAを紹介したい。

あらゆるエンターテインメントが集まる街、ニューヨーク。ここには一流のアーティストを目指して世界中からたくさんの才能がやってくる。いつかブロードウエイのメインキャストに選ばれることを夢見るダンサー。カーネギーホールの桧舞台で奏でることを目指す音楽家。もちろんジャズとて例外ではない。いつかはこの熱っぽいジャズの都を拠点として世界中をツアーして回る。そんな自分のため に毎日を送っているジャズメンは数知れない。

 

そんなジャズの都には日本からもたくさんの才能がわたっている。ほんの数年暮らす人から、完全に住民として拠点を据える人まで色々だが、その誰もが成功するわけではない。こんな話がある。

 

以前、日本文化をアメリカに紹介する機関、ジャパン・ソサエティのディレクターと話をしたときのこと。その日に出演するジャズメン達の話に及んだときに「でもこの街にいて音楽で暮らすのはとっても“タフ・ワーク”だから」というのだ。話題に上がっていたのは世界的に知られているジャズ・ミュージシャン。それでも大変なことだとディレクター氏はいうのだ。このひと言はものすごく印象に残っている。

 

それだけに、ニューヨークで暮らす日本人ミュージシャンに出会うと、必ずこのエピソードを話して、こう尋ねるようになっている「で、あなたはどう?」と。激しい競争の中に身を置いているのは先刻承知だが、ほとんどの相手はそのことを認めながらもそれを上回る魅力がここにはあるという。

今回ご紹介するのはジャズ・シンガーのERIKA。早いものでニューヨーク暮らしももう17年になるという。「一時期はニューヨークなんてすっごく嫌いになって、歌うことすらできなかった」という彼女だが、先ほど書いたとおりそれを上回る魅力と刺激が彼女をニューヨークにとどめているようだ。

 

さて、ジャズを志す若手で最近よくあるパターンとしては、東京や大阪で下地を作って、まずはボストンのバークリー音楽大学へ。それからニューヨークをはじめとする大都市へと向かう(中にはそのままバークリーで教える側になる人もいる)パターンだが、ERIKの場合はニューヨークでジャズを学んだという。「(元クアシモードの)ピアニストでコンポーザーの平戸祐介さんに誘われてこの街へきました。それから市立のシティーカレッジで学んだんです」。

 

それ以前は生まれ故郷である九州の短大に通っていたので、九州筑後から直接ニューヨークへと向かってしまったという。これもなかなかにユニークだ。だから彼女がライブするおしゃべりは、なんと筑後弁。「筑後弁と英語しかできませんから(笑)」。これもある意味新世代と言うべきだろう。

もう一つERIKAがユニークなのがそのレパートリー。ジャズやポップなナンバー以外に、ブラジル音楽も数多く歌いこなしている。それもポルトガル語と英語で歌う。ならばブラジリアン・シンガーの看板に掛け替えたら?というと「確かにブラジルの音楽も大好きですが、自分としてはやっぱりジャズシンガーであることにこだわりたいんです」ときっぱり。先日、東京でのライブがあったのだけど、そこで聞かせたスゥインギーな一曲など、なかなかの出来映えだった。ニューヨークが持っている「街のグルーヴ」に溶け込んでいる証拠だろう。

 

それでも歌い続けることは“タフ・ワーク”であることには変わりはない。まさか空いている時間にウエイトレスでもしているのか?「まさか(笑)。ブルーノートのステージにも立ったし、そこそこのお店で歌っているのに、それはできないですよ(笑)。でも歌一本では無理です。だから取材や音楽関係のコーディネートといった仕事もしてますよ」その言葉に少し安心したのだった。

この数年は年に2回ほど日本へ<来日>して、全国を巡っているERIKA。そのときに大概はアート・ヒラハラ、エリオ・アルベスといったニューヨークでも著名なピアニストを連れてくるのがパターンになっている。そこも彼女なりのこだわりといったところなのだろう。特に今年の秋は新作「Reflections」をひっさげてのツアーになった。「ニューヨークではいくつもの出会いや別れに遭遇するんですが、そこから生まれる反射がまた自分を彩っていく。そんな気持ちを込めたタイトルです。コンセプトに沿って選んだ曲から、リクエストが多い曲まで選んでみたんですが、いつも選びすぎて(笑)なるべく厳選したつもりです。

 

出会いと別れ。普遍的に起こるこの出来事が生み出すいろいろな何かが、ERIKAをニューヨークにつなぎ止める。そして我々は彼女の歌声を通して、ニューヨークの街が生み出すグルーヴを少しばかりお裾分けしてもらっているのかも知れない。そして彼の地でのERIKAの成長を見守る幸運にあずかっているのかも知れない。

 

リリース情報
ERIKA(ERIKA MATSUO) /エリカ
Reflections リフレクションズ
disk union 発売中

 

曲目
1. Serrado
2. Caravan
3. Inútil Paisagem
4. Reflections
5. Now You Are Not Here
6. Spain / I Can Recall
7. Moonlight Butterfly
8. Lullaby Of Birdland
9. Always -Reflections-
10. Autumn In New York
11. LIFE
12. Mas Que Nada
13. Hikoukigumo ひこうき雲

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