あなたは、親を見捨てることができますか

国会は安保法制一色になっています。たしかに安保法制は日本の行方を左右する重要な法律です。しかし日本が抱える問題は他にもいろいろあります。

 

その中で最も重要だと思われるのは、財政と社会保障です。日本の財政は先進国では最悪レベルです。ヨーロッパで問題になっているギリシャでも、国の累積債務(借金総額)はGDP(国内総生産)の180%ほどです。しかし日本はざっと200%にも達します。借金に頼る状態をいつまでも続けられるはずはありません。もし経済がよくなって、長期金利が上昇すれば、国が借り入れる金利も上昇します。当然、利払いの金額は大きくなります。

 

財政が苦しい状況にある反面、社会保障に必要な支出はどんどん増えます。とりわけ団塊の世代がいわゆる後期高齢者に入る2025年以降は医療費が急増すると見込まれています。もちろん介護費用も年金も増加するでしょう。社会保障全体で1985年に36兆円だった費用が、2014年には115兆円、2035年には190兆円になると国は試算しています。

 

なかでも医療費は、現在の40兆円から2025年には50兆円を越えるとされています。後期高齢者に入った団塊の世代が病院に行く頻度が高まるからです。この医療費をどう賄うのかが大問題なのです。老人は75歳になると窓口で払う自己負担分は1割です。これまでは若い世代が多かったので支えられましたが、これからはそうはいきません。保険料を払う現役世代が少ないからです。

 

そうなるとどうやって医療費を節約するのかが問題になります。つまり医療費のかかる老人にこれまでのように無制限に保険診療を受けてもらうことはできないということになります。たとえばヨーロッパには、80歳以上になると病気によっては治療しないと言う国もあります。日本もそうなるでしょう。そうしないと保険財政が保たないからです。

 

もちろん自費診療は可能です。老人に支払能力があればいいですが、年金生活でやっている人は支払能力がないかもしれません。そうなったとき、その老人の子どもである皆さんが選択を迫られることになります。親の医療費を負担するかどうかです。

 

これはそう突飛な話ではありません。国の財政を再建しながら増加する医療費に対応するというのは、おそらくそろそろ限界に来ているからです。もちろん介護なども同じことが言えます。

 

日本経済が成長しているときならば、全体に社会保障を行き渡らせるという選択もあったのですが、成長が見込めなくなったときには、どこを切り捨てるかという選択になります。団塊の世代である私の覚悟は決まっていますが、皆さんは親を見捨てることができるでしょうか。

藤田正美

藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長/東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年~2000年に同誌編集長、2001年~2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。現在、東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員。