40代で離婚しないために。夫ができる妻の幸福度コントロールとは

「夫になんの興味もない」
「夫の脱いだスリッパを見ただけでもストレスがたまる」
「死んでも夫と同じお墓には入りたくない」

これらは妻が夫への憎悪を投稿する、とあるサイトに綴られたの言葉の数々です。月間サイト利用者数は10万人を越えており、サイト内は日頃のストレスを爆発させる「妻たちのホンネ」で溢れています。このウェブサイトを覗くと、多くの妻達が夫にネガティブな感情を抱いていることがわかります。

しかし、夫はなぜ妻に嫌われるようになってしまうのでしょうか?
40代以降の幸せな夫婦生活のために、夫がするべきことは何なのでしょうか?

本記事では夫が妻に嫌われるようになった時代背景、そして幸せな夫婦生活のために夫ができることについて、社会学者として家族社会学を研究している立命館大学の筒井淳也教授に語っていただきました。

 

男女の力関係の変化が「夫嫌い」を表面化させた

まずは、“妻が夫を嫌うようになった時代背景”をご説明します。

『ご主人様と労働者』から『夫婦』という対等な関係へ

会社勤めよりも家業を営む男性が多かった1970年代よりも前の時代、女性は妻であると同時に、夫の家に雇われる身でもありました。そのため、当時は『夫が上・妻が下』と、夫婦の上下関係がハッキリとしていました。夫と妻の間には、社長と社員くらいの格差があったのです。今日も『旦那様』『ご主人』といった呼び名が定着しているのは、この時代の名残です。当時も夫を嫌う妻は一定数いたかと予測されますが、主従関係があるため、その感情が世間に露呈することは多くありませんでした。

しかし、このような夫婦関係は1970年代以降、会社勤めの人口が増えるにつれて変化を見せます。夫が会社に雇われて稼ぐようになったことで、女性が夫に雇われるという上下関係が徐々に消えていったからです。『友達夫婦』や『ニューファミリー』といった、新しい夫婦のあり方を示すような言葉が登場し始めたのもこの頃。男女平等の意識も夫婦に浸透し、夫と妻の立場の差がグッと縮まり始めます。それでもこの時代はお金を稼ぐのは夫がメインだったため、夫の立場は妻よりも上でした。

しかし、バブル崩壊などで景気が悪くなり、やがて夫の稼ぎだけではやっていけない時代が訪れます。昨今ではメジャーとなった、夫婦共働き時代の始まりです。共働きになると、夫婦関係はより対等なものへと変化します。実は、この『対等な関係』こそが、夫に対する不満が露呈する要因のひとつなのです。

夫への不満を言いやすい時代になっただけ

先に述べましたが、過去にも夫を嫌う妻はいました。しかし、過去は夫婦の主従性の都合上、不満が公に出ることは多くありませんでした。しかし、時が流れ夫婦関係が対等になることで、妻が夫への不満や理想を外に出しやすくなったのです

また、関係が対等になったことで妻の『許容度』が下がったというのも、嫌われる夫が増えた一つの要因と言えるでしょう。昔のように、夫の全てを許容する必要がなくなった=我慢し続ける必要性が無くなったのですから。

家事・育児参加にメンタルサポート……妻の理想を満たせない夫たち

このような男女の力関係の変化によって、妻が夫に求めるようになったのが「家事・育児参加とメンタルサポート」の2つです。これらに応えられていない男性は、妻に嫌われたり見放されたりするケースが多いようです。では、なぜ男性がこの2点に応えられていないのか。その理由を解説します。

家事・育児参加について

共働き夫婦であれば、男性にも家事・育児への参加が求められます。 ここで夫が積極的に参加をしていれば妻の満足度も上がるかと思われますが、『男性が家事・育児に参加しているのに、女性の家事・育児の負担が減っていない』という奇妙なデータもあります。これには、2つの理由があります。

1つ目は、男性は家事・育児に“単発的”に協力するため作業が粗く、かえって女性の仕事を増やしているから。2つ目は、女性が男性に家事・育児の品質を求めすぎていて、満足できていないから。この2点があるため、女性の期待に男性が応えられていないと言えます。

なお、「男は仕事が忙しいから家事や育児に参加できない」という意見がありますが、必ずしもそうでないことがわかっています。「労働時間が同じ日本人男性と海外の男性の家事・育児にかける時間」を調べたところ、日本人男性の参加時間の方が、海外に比べて少ないという結果が出ました。つまり労働時間は同じでも、海外の男性の方が家事・育児に多くの時間を割いているのです。

メンタルサポートについて

メンタルサポートとは、悩みを聞いてあげたり、適切なアドバイスをしたり、ほめたりといった、精神的なサポートのことです。夫婦の配偶者満足度を調べてみると、お互いにメンタルサポートができている夫婦は満足度が高いことがわかっています。

結婚すると女性は、それまで親や友人に求めていたメンタルサポートを一番身近な夫に求めます。しかし、男性は基本的にメンタルサポートが苦手です。女性は友達同士でほめ合ったり、悩みを打ち明け合ったりというコミュニケーションを取りますが、男性の場合はあまり見られないですよね。特に40代以上の男性はメンタルサポートの経験があまりないため、やり方がわからないのです。

夫との間に精神的なつながりが無いと、妻の胸には不満がつのり始めます。
40代以降の女性で経済的に自立している方はあまり多くないので、『メンタルサポート不足による不満』だけで離婚に踏み切る方は多くいません。しかし、ここに『経済状況の悪化』が組み合わさると事態は変わります。

稼ぎがあるときは精神的なつながりがなくても許せていた夫が、稼ぎが無くなった瞬間に許容できなくなるのです。実は結婚経過年数が20年以上を越えた熟年夫婦の離婚理由でもっとも多いのが『経済状況の悪化』なのですが、これは単に稼ぎが減った夫が嫌になるのではありません。嫌になるきっかけには、『メンタルサポート不足』が大きく影響しているのです。

このこように家事・育児参加やメンタルサポートなど、妻が夫に求めるハードルは以前に比べて確実に上がっています。新しい価値観に順応できていない40代以上の男性は、妻に愛想を尽かされる可能性があるでしょう。ただし、一方的に男性が悪いという訳ではありません。妻側も、男性に精度の高い家事を期待しないようにするなどの歩み寄りが必要です。

世界共通!? 結婚後、妻の幸福度は下がり続ける

近代社会では、結婚すると男女ともに幸福度は例外なく下がっていきます。特に女性は下がり幅が大きく、婚約時を頂点に後は下がり続けます

女性の幸福度の低下は、子供が生まれるとさらに顕著になります。子供が生まれると幸福度が下がるというデータは、ほとんどの国で見られる傾向です。この傾向は子育ての制度が充実したノルウェーを除いて、全世界で共通しています。結婚と子育ては女性の幸せの象徴のように語られますが、実は逆で、幸福度は40代・50代まで下がり続けるのです。

とはいえ、独身で居続けるよりも結婚した方が全体の幸福度は高いといわれています。つまり、女性の幸福度の低下を抑えるには、配偶者との関係性を良好に保つことが大切なのです。

夫がすべきは『家事・育児参加のルーチン化』『会話ができる環境作り』

下がり続ける女性の幸福度をあげるためには、夫が家事・育児参加のルーチン化と会話(メンタルサポート)ができる環境作りをサポートすることが大切です。

家事・育児参加のルーチン化

単発での家事・育児参加はかえって女性の負担になります。後で妻が家事をやり直すことがないように、しっかり役割を分担して、夫も家事をルーチン化して取り組む必要があります。炊事・洗濯・育児に必要な作業は夫婦間で共有し、どちらがやっても大きな差異が出ないようにコミュニケーションを取りながら進めましょう。
夫が家事・育児に参加する目的は、妻の負担を減らすことです。男性も家事・育児を自分ごとと捉えて分担し、毎日のルーチンとして取り組みましょう。

会話(メンタルサポート)ができる環境作り

結婚すると幸福度は下がりますが、会話がしっかりできている夫婦は下がり幅を抑えることができます。大切なのは、精神的なつながりを生む「悩みや思いの分かち合い」ができているかどうか。メンタルサポートは基本的に女性が男性に求める要素です。ただ会話をする時間を設けるだけでなく、妻が何を求めているかを考えながらしっかりと相手に向き合いましょう。

家事・育児参加やメンタルサポートは日々の積み重ねが何より重要です。そのため、40代を超えて信頼関係ができあがっていない場合は、もう手遅れの可能性があります。それでも夫婦の関係を取り戻すには、根気強く相手と向き合うしかありません。

ワークライフバランスの『ライフ』に、家事・育児は入れないように

人生の幸福度を上げるために「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」という考え方があります。
ワークライフバランスを考えるときに、多くの人がライフの中に家事や育児の時間を含ませて考えますが、それは誤りです。ライフの中に家事・育児を含ませると、仕事・家事・育児の両立だけで1日が終わり、夫婦でゆっくりと会話をする時間など取れません。

有償労働(仕事)と無償労働(家事・育児)はワークに含めて、それ以外の自由な時間(ライフ)をどうやって確保するかを夫側から考えれば、幸福度を上手にコントロールできるようになるでしょう。

40代既婚女性で経済的に自立している方はまだまだ少数派です。そのため、夫に不満を持っていても離婚しないというケースが多く、一緒に生活している内は関係修復のチャンスがあります。
今回ご紹介した幸福度コントロールを実践して、40代以降の幸せな夫婦生活を実現しましょう。

 

取材・文:児島宏明
企画編集:小嶋悠香

淳也筒井

淳也筒井

立命館大学産業社会学部教授 1970年生まれ。専門は家族社会学・計量社会学。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016)『社会学はどこから来てどこへ行くのか』(有斐閣、2018、共著)など。