2019.07.01

健康
アウトドア界に『ウルトラライトハイキング』ブームの兆し。「軽さを武器に、余裕を味わう」初心者も満喫できる、その楽しみ方とは【土屋智哉さんインタビュー】

体力が持つか心配――
どんな道具を揃えて良いかわからない――
などなど、何かと不安がつきまとう登山やトレッキング。

「挑戦してみたい」という思いはあるものの、なかなか重い腰が上がらない大人は多いのではないでしょうか?そんな方々におすすめしたいのが、軽い荷物で登山やトレッキングをおこなう「ウルトラライトハイキング」。

今回はそんなウルトラライトハイキングの魅力や始め方について、ウルトラライトハイキングをテーマにしたアウトドアショップ「Hiker’s Depot(ハイカーズデポ)」のオーナー「土屋智哉」さんに語っていただきました。

空気が爽やかで美しい緑が堪能できる夏の山は、アウトドアをはじめるのにぴったり。
この夏、ウルトラライトなスタイルでハイキングを楽しんでみませんか?

土屋智哉

東京、三鷹にある「ライト、シンプル&ナチュラル」をテーマにしたアウトドアショップ、ハイカーズデポのオーナー。『バックパッキング入門』という本に魅了され、アウトドアの道へ。大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライトハイキングに出会い、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、アメリカのジョン・ミューア・トレイルをスルーハイクしたのち、ハイカーズデポをオープン。現在は、ショップを経営しながら、雑誌・ウェブなどで、ウルトラライトハイキングの楽しみ方やカルチャーを発信している。 著書に 『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)がある。 URL:https://hikersdepot.jp/

※以下はすべて、土屋さんのインタビュー内容です

 

 

「余裕を楽しむウルトラライトハイキングは、初心者にこそおすすめしたいアウトドア」

ウルトラライトハイキングは「アウトドアに馴染みのない方や体力に自信がない方も十分に楽しめるカルチャー」です。

その理由のひとつは、「ウルトラライト≒ 荷物が軽い」という点にあります。ウルトラライトハイキングは荷物を軽量化して楽しむハイキングスタイルなので、身体への負担を最小限に抑えられます。そのため、体力に自信のない方でも気軽にアウトドアを楽しめるのです。

軽量化はするものの、「危険を招くような軽量化ではない」というのも重要なポイント。ヘッドライト・地図・水分・雨具・エマージェンシーキットなど、リスクへの備えは必ず携帯するので、初心者でも安心なのです。

さらにウルトラライトハイキングに挑戦する際は、「難易度の高い山」を選ぶ必要はありません。1000メートル以下の低山でも、その魅力を十分に体感できます。東京でいうと、登山初心者が入門編として選ぶ「高尾山」や「御岳山」などでもウルトラライトハイキングを楽しめるでしょう。

では、そんな“低山でも体感できる”ウルトラライトハイキングの魅力とはどのようなものなのでしょうか?また、ウルトラライトハイキングはどのようにして始まったのでしょうか。

その歴史や魅力を、もう少し詳しくご紹介しましょう。

半年に及ぶ「ロングハイク」のために生まれたウルトラライトハイキング

ウルトラライトハイキングの魅力は、アウトドア初心者も身体的負担なく楽しめる“手軽さ”と、それに相反するかのようなカルチャーとしての“奥深さ”にあります。

ウルトラライトハイキングは、ロングディスタンスハイキング(以下、ロングハイクと表記)というアメリカのハイキング文化の中で生まれたスタイルのハイキングです。ロングハイクというのは、数百kmから数千kmのロングトレイル(長距離の自然歩道)を歩いて踏破するハードなハイキングを指す言葉で、行程は短くて1~2か月、長いときは半年に及ぶこともあります。

そんな長期間の「歩き旅」でネックになるのが、荷物の重さでした。毎日歩き続けることを考えると、重い荷物は精神的にも肉体的にも負担があまりに大きく、軽量の道具と必要最低限の荷物を使うウルトラライトハイキングというスタイルが一部の先鋭的なハイカーにより生みだされました。

アメリカでは90年代からあったスタイルで、日本では2000年代前半に一部の愛好家が楽しみはじめましたが、本格的な普及は2010年代以降となります。10年くらい前に私がこの店を開いて、ウルトラライトハイキングという言葉が日本でも少しずつ認知されていったイメージです。最近は日本でもさまざまなメーカーがウルトラライトハイキングをテーマにした商品を開発するようになり、国内の山でウルトラライトハイキングのアイテムを普通に見かけるようになっています。

ロングハイクを劇的に変化させる「-5kg」

ウルトラライトハイキングの話を聞いて「軽くするって、どこまで軽くするの?」っていう疑問が浮かぶ方もいるかと思います。

その答えとしては「ライトなハイキング(一般的なテント泊登山)と比較して、マイナス4~5kgほど軽くする」になります。このマイナス4~5kgというのは実はすごく大きな数字で、身体への負担が劇的に改善される重さなんです。

以下の表を確認するとわかりやすいのですが、まずはハイキングの世界で用いられる「ベースウェイト」という考え方からご説明します。ベースウェイトとは、ハイキングの日数によって変動する水食料を除いた道具だけの重さのこと。以下の表は、ベースウェイトを基準にしています。

(参考※ハイキングスタイル別の荷物のベースウェイト)

  • ・TRADITIONAL :12~13kg ※水・食料・燃料を含まない道具のみの重量
  • ・LIGHT WEIGHT :8~9kg程度 ※水・食料・燃料を含まない道具のみの重量
  • ・ULTRA LIGHT :4~5kg程度 ※水・食料・燃料を含まない道具のみの重量

上記の数字からわかるように、ウルトラライトハイキングは、ライトなハイキング(一般的なテント泊登山)と比較してマイナス4~5kgほど、トラディショナルなハイキングスタイルと比較すると、ベースウェイトが8~9kgほど軽くなります。

ちなみにマイナス4~5kgという数字は、あくまでロングハイクを想定したときの基準。日帰りや1泊2日など、短期の登山やトレッキングであれば、重量はさらに軽くなると思います。

スキルやレベルにとらわれない。自然を全力で楽しむための「ウルトラライトハイキング」

「軽量化、軽量化」という話をして少し矛盾するようですが、ウルトラライトハイキングにおいて「軽くすること」は手段であって、本当の目的ではありません。ウルトラライトハイキングを実践する本当の目的は重い荷物から身体を解放して、景色を楽しんだり途中の河原で水遊びをしたり、自然とふれあう余裕を確保することです。自然を全力で楽しむことが目的で、その手段として荷物を軽くするというのが大切なポイントです。

 つまり、ウルトラライトハイキングは玄人向けに始まった文化ではあるのですが、それを楽しむのにレベルやスキルの違いは関係ないのです。むしろ、荷物が軽くなる分「初級者や体力に自信がない方」が自然を楽しむのにぴったりな方法だといえます。

グランピングなどのゴージャスさの対極にあるシンプルな楽しみ方

ここまでお話したように、ウルトラライトハイキングは初級者や体力に自信がない方におすすめのスタイルですが、中には「軽量化のために必要な装備まで省かれているのでは?」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、これは大きな誤解です。最低限必要なものだけをパッキングするシンプルなスタイルこそがウルトラライトハイキングの特徴。例えば、日帰りの登山を想定すると最低限必要なものは以下の7つと言えるでしょう。

  • ・防寒着
  • ・雨具
  • ・ヘッドライトor懐中電灯
  • ・医薬品
  • ・地図
  • ・水
  • ・食料

必要なものはこれだけ。靴はスニーカーなどの運動靴で問題ありません。もちろん、滞在時間が長くなったり自然環境が厳しくなったりすると装備を増やす必要がありますが、近場の里山であれば必要なのはこれだけなんです。

イメージとしては、小学校の頃の遠足や林間学校が近いかもしれません。遠足の登山で、重厚な山靴や高級なレインウェアを持っている人はあまりいなかったと思いますし、荷物を入れるのはナップサックのような簡易なものだったはず。登山やトレッキングと聞くとおおげさに捉えてしまいがちですが、安全性を担保できれば、実はこれだけでも十分。

安全性を損なうことなく、必要なものだけをシンプルに揃えて身軽にでかける。グランピングのようなゴージャスなアウトドアの楽しみ方と対極にある、「シンプルさ」を楽しむのがウルトラライトハイキングの醍醐味なんです。

「ウルトラライトハイキングのギアは、どれも小さな巨人なんです」

では、ウルトラライトハイキングで使われるギアは、どのくらいコンパクトでどのくらい軽いのか。
バックパック・シュラフ・ポンチョ・テント・クッカーなど、まずは抑えておきたい初心者におすすめの道具を、泊まりのケースを含めて、いくつか選んでみました。

バックパック:Trail Bum【Steady】

まずは、Trail Bum(トレイルバム)というメーカーのSteady(ステディー)というバックパック。
容量は48L、重量は540gと軽量で、アメリカの3大トレイル(※)を日本人としてはじめて踏破した「舟田 “Yas”」さんという方の自作バックパックをデザインのベースにしています。日帰りから泊まりまで、さまざまなタイプの登山やトレッキングに対応できるのが魅力。舟田さんはベースとなった自作バックパックでアメリカの3大トレイルのうち2つを踏破しています。ちなみにSteadyという名は、舟田さんがハイカーたちから呼ばれていたハイカーネームなんです。

商品URL:https://hikersdepot.jp/products/2014.html/
※アメリカの3大トレイル:パシフィック・クレスト・トレイル、アパラチアン・トレイル、コンチネンタル・ディヴァイド・トレイル

雨具:SEA TO SUMMIT【ULTRA SIL NANO PONCHO】

雨具は、SEA TO SUMMIT(シートゥーサミット)というメーカーのULTRA SIL NANO PONCHO(ウルトラシルナノポンチョ)がおすすめ。撥水処理がされているナイロン生地のポンチョで、145gと非常に軽量。衣服だけでなく、これ一枚でバックパックまで覆えるのもポイントです。ポンチョは元々軍用として開発されたアイテムですし、一昔前の登山家は雨が振ったらレインウェアではなくポンチョをかぶるのが普通でした。大雨に長期間さらされる可能性があるときはやや不安ですが、日帰りで2~3時間雨をしのぐといった使い方であれば何の問題もありません。

商品URL:https://www.amazon.co.jp/Sea-to-Summit-ultra-sil-Nano%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A7/dp/B072Q2HLCX

クッカー(キャンプ用料理鍋):If you have【Pound Cup】【TiMNEY】

▲収納前

こちらは、日本のIf you have(イフユーハブ)というメーカーが出しているPound Cup(パウンドカップ)とTiMNEY(チムニー)という製品です。パウンドカップは67gの軽量鍋で、チムニーは7gの五徳(火元の上に設置して、鍋などの調理器具を置くための器具)を兼ねた風防とアルコールストーブのセット。オールインワンになっており、クッカーの中にすべてを収納できます。クッカー類はさまざまな道具の中でもかさばりやすいのですが、パウンドカップとチムニーであればバックパックの中で邪魔になることはありません。

▲収納後

また、コンパクトで洗練された美しさもパウンドカップとチムニーの魅力。持っているだけでも嬉しくなるアイテムです。固形燃料とウッドストーブのセットにすれば、3種類の燃料にも対応できます。日帰りでも泊まりでも、大自然の中で温かい食事を楽しみたいという方におすすめです。

商品URL(Pound Cup):http://www.ifyouhave.org/2015/02/pound-cup.html
(TiMNEY):http://www.ifyouhave.org/2014/10/timney.html

そのほか、簡易アルコールストーブには男心をくすぐるアイテムがたくさんあるので、趣味に合わせて選んでみてもおもしろいかもしれません。

▲アルミ缶を使ったアルコールストーブ

 

手提げ/サコッシュ:Highland Designs 【Hiker Sacoche “BB style”】

今では多くのメーカーからサコッシュが販売されていますが、オリジナルはHighland Designs(ハイランドデザイン「ハイカーズデポのブランド」)のハイカーサコッシュBBstyleです。元は必要なものだけを入れて簡単に取り出せるカバンとして、現在のサコッシュと同じカタチのものを私の友人が作成したのがきっかけ。友人がたまたまそのカバンを私にくれたんですが、まさに私がハイキングの際に求めていたカバンだったんです。最初は個人で使っていただけだったのですが、2009年頃にお店でも販売をはじめました。カバンを作ったのは私の友人ですが、サコッシュという名前をつけたのは実は私です(笑)
非常食・地図・携帯・コンパクトカメラなど、頻繁に出し入れするものを入れるのに適したシンプルな作りで、持っておくと便利なアイテムのひとつです。
商品URL:https://hikersdepot.jp/products/1544.html/

テント:finetrack【Zelt II Wide】

日帰りのハイキングにも少し慣れて、「泊まりにも挑戦してみたい」というときにおすすめなのが、テントではなくツェルト(ドイツ語でテントの意味)。ツェルトは小型軽量テントとして日本で開発された製品で、日本の気候・環境にマッチした作りになっています。こちらは、ハイカーズデポが日本のアウトドアメーカーfinetrack(ファイントラック)に別注依頼したZelt II Wide(ツェルトツーワイド)という製品で、383gという衝撃的な軽さとコンパクトさが特徴です。さらに2人でゆったりと寝られる居住性も兼ね備えており、親子で泊まりのハイキングといった楽しみ方にもピタッとマッチします。また、登山の世界では非常時や緊急時の必需品とされているので、安心感も十分です。
商品URL:https://hikersdepot.jp/products/4994.html/

シュラフ(寝袋):Highland Designs【Down Bag】

泊まりの際にもうひとつ欠かせないのが、シュラフです。夏の低地であれば不要なこともありますが、紅葉のシーズンも泊まりでアウトドアを楽しみたいという場合は、3シーズン対応(春・夏・秋)のシュラフがないと寒くて眠れません。Highland Designs(ハイカーズデポのブランド)のDown Bag(ダウンバッグ)は、3シーズン対応シュラフの中では最軽量級の885g。羽毛の増量(追加料金が必要)を受け付けているので、万が一暖かさが足りない場合は自分好みに暖かさにカスタマイズできます。たまに「3シーズンのシュラフを購入したけど、寒くて寝られないので買い替えた」という声を聞くのですが、Down Bagであればその心配はありません。
商品URL:https://hikersdepot.jp/products/841.html/

どのアイテムも、驚くような軽さと小ささなのですが、その中にアウトドアで必要なさまざまな機能が詰め込まれています。「この軽さとコンパクトさで、2人も泊まれてしまうのか……」といった、驚きと出会えるのもウルトラライトハイキングの楽しさのひとつ。ウルトラライトハイキングのアイテムは、どれも「小さな巨人」なんです。

「利便性や快適性と距離をとることで、初めて気づける楽しさがある」

ここまでウルトラライトハイキングのさまざまな魅力をご紹介してきましたが、快適性や利便性といった部分は不十分かもしれません。

しかし、快適性や利便性と距離をとることで、自然を間近に感じられたり、工夫する楽しさに気づけたりするのがウルトラライトハイキングの楽しいところ。

目的地を目指すだけでなく、沢に寄り道して足を冷やしながら風景を楽しむ―
建物で自然を遮断するのではなく、ツェルトで雨や風の音に耳を傾けながら眠りつく――
ガスコンロの火力ではなく、アルコールストーブだけで上手に調理するにはどうするのかを考える――

ウルトラライトハイキングを実践すれば、利便性や快適性の中で過ごしていると決して気づくことができない、「新鮮な刺激や楽しさ」を感じるがことができます。

都会の暮らしや都会の遊びになんだか飽きてきたという方は、必要最低限の道具を詰めてお一人でも家族とでも、ぜひ近場の里山に訪れてみてください。
そこでは、久しく感じることができていなかった、自然の力強さや工夫することの楽しさに出会えるかもしれません。

 

ライター:児島 宏明
編集:小嶋悠香

土屋智哉

土屋智哉

東京、三鷹にある「ライト、シンプル&ナチュラル」をテーマにしたアウトドアショップ、ハイカーズデポのオーナー。ショップを経営しながら、雑誌・ウェブなどで、ウルトラライトハイキングの楽しみ方やカルチャーを発信。 著書に 『ウルトラライトハイキング』(山と渓谷社)がある。 URL:https://hikersdepot.jp/