現代のいじめを知り、子を守る。複雑化するいじめの定義・原因・対処法【「ストップいじめ!ナビ」須永祐慈氏監修】

学校は勉強をするだけでなく、人との関わりの中で社会性を学ぶ場所。
クラスメイトと深い心の交流ができることもあれば、ぶつかり合うこともあるでしょう。

そんな中で、もしも我が子が“いじめ”に遭っていたとしたら?

親として、どのように子どもと向き合い、事態の解決に向けてどう対応すれば良いのでしょうか。
また、いじめが起きてしまう根本的な原因はなんなのでしょうか。

特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」の副代表理事、須永祐慈さんに詳しく語っていただきました。

須永祐慈

特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」副代表理事であり、「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」発起人。自身もいじめ被害・不登校の経験者として、体験談に基づき、いじめ問題に関する提言や情報発信を行っている。URL:https://stopijime.jp/

※以下はすべて、須永さんのインタビュー内容です

 

現代いじめの定義と特徴

いじめは1980年代から社会問題として取り上げられるようになり、時代の流れとともに定義や特徴が変化してきました。まずは、現代いじめの定義と特徴について解説します。

被害者の感情を優先する「いじめの定義」

いじめの定義について、2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」には以下のように明記されています。

  • 第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

この条文の趣旨は「いじめは他人が判断するものではなく、本人が『辛い・苦しい』と感じたらいじめである」ということ。被害者がどう感じているかを優先していじめかどうかを判断するのが現代の考え方です。

現代いじめの2つの特徴

現代いじめには、「構造の複雑化」「リアルとネットの複合いじめ」という2つの特徴があります。

1.同じ児童が加害者にも被害者にもなる複雑な構造
「いじめっ子(強者)・いじめられっ子(弱者)」という言葉に象徴される通り、これまでいじめの構造は比較的ハッキリとしたイメージで語られていました。

しかし、本来のいじめはもっと複雑で、単純なイメージだけでは説明できないものです。最近のいじめ事件を見ていると、そんな「構造の複雑さが顕著になってきた」と感じます。例えば、2015年に神奈川県川崎市で発生した以下の事件。

  • ・川崎市中1男子生徒殺害事件
  • 2015年2月20日、神奈川県川崎市川崎区港町の多摩川河川敷で当時13歳の中学1年生の少年が、少年3名に殺害された上に遺体を遺棄された事件。主犯格の18歳少年は、学生の頃に同級生からいじめを受けていた「いじめられっ子(弱者)」で、「弱者が弱者を対象にしたいじめ」という点で、一般的ないじめのイメージとは異なる構造が見られた。

このような複雑な構造は、事件だけでなく、いじめを対象とした調査からも見えてきます。例えば、国立教育政策研究所生徒指導研究センターがまとめた「いじめ追跡調査 2013-15」の中にある「いじめの加害と被害の経験回数」というアンケート。

 このアンケートの結果を見ると、「多くの子どもが『いじめる』ことも『いじめられる』ことも経験したことがある」と返答しています。ここからは憶測ですが、「いじめっ子といじめられっ子が絶えず入れ替わるような複雑な構造」が浸透しており、多くの児童が加害と被害どちらも経験しているのかもしれません。

いずれにしても、現代のいじめは「強者が弱者に対して行うもの」という従来のイメージとは違うものであると考えられます。


2.リアルとネット(LINE)での複合的ないじめ
もうひとつ現代のいじめの特徴として、「ネットいじめ」が挙げられます。典型的な例が、LINEのやりとりの中で発生する「LINEいじめ」。具体的には以下のような事例が報告されています。

  • ・グループの中で特定の人が誹謗中傷を受ける
  • ・グループの中で特定の人が無視をされる
  • ・グループから1人だけ外される

「LINEいじめ」の恐ろしい点は、スマートフォンを通して嫌がらせを受けるため、逃げ場がないということ。休日、昼夜問わず誹謗中傷のメッセージが届き、無視をするとさらなる口撃が浴びせられます。

「LINEグループを退会すれば良い」「スマートフォンを持たなければ良い」という意見もあるかもしれませんが、ネット上でのコミュニケーションをやめても、リアルな場でのいじめはなくなりません。リアルな場のいじめとネット上のいじめはセットで行われることがほとんどで、やめたことをきっかけに、リアルな場でのいじめがエスカレートしてしまうこともあります。

いじめが起こるメカニズム。「ストレス」「抑圧された集団生活」「4層構造」

それでは、なぜいじめは起こるのでしょうか。いじめが発生するメカニズムについて、簡単にご紹介します。

いじめが起こる根本原因は「ストレス」

いじめが発生するエネルギーの根源は、「ストレス」です。体も心も発達段階の子どもにとって、あふれるエネルギーを発散できる場所がとても大切。自宅や学校、その他の環境など、どこかに心を解放できる場所がないと、気づかないうちに少しずつストレスが溜まり、やがてその矛先が同級生に向けられます。

抑圧された集団生活でストレスが増幅

学校は、児童が大人の管理のもとで集団生活を行う場所。そうした抑制された環境では、いじめが生まれやすいと考えられています。さまざまなルールに縛られながら生活する中で、学校・家庭・友人関係などで蓄積されたストレスがさらに増幅し、些細なことでそれが爆発、いじめへと発展します。

いじめを是認してしまう4層構造

いじめがエスカレートしてしまう理由は、被害者と加害者という2者だけでなく、クラスを巻き込んだ「いじめを是認してしまう4層構造」にあります。

  • 1.被害者:いじめを受ける生徒
  • 2.加害者:被害者をいじめる生徒(主犯者)
  • 3.観衆:いじめをはやし立てる生徒(聴衆)
  • 4.傍観者:見て見ぬフリをする生徒

主犯者の周りは、仲の良いメンバーが「観衆」として存在し、いじめに加担しないまでもその様子を面白がり、行為を助長します。傍観者はいじめに対して心の中では「NO」と思っているものの、自分が被害者になることを恐れて、その場から立ち去ってしまいます。こうした4層構造により、結果的に組織全体がいじめを是認することになり、いじめを止められなくなるのです。

「言動」「態度・行動」「体調」。親が見逃してはいけない“子どものSOS”

いじめによる深刻な事態を防ぐために、いじめの事実に早めに気づき、親がサポートする必要があります。子どもが親にいじめの事実を打ち明けるのはごく稀ですが、実はさまざまな形で“SOS”を発信していることを、いじめを経験した多くの子どもが語っています。

SOSがあらわれるのは、「言動」「態度・行動」「体調」。以下の例はごく一部ですが、多く語られている例を挙げてみました。

言動

子どもが発する言葉の中に、以下のようなものが増えたと感じた場合、学校生活で何かしらの問題を抱えている可能性があります。

  • ・だるい
  • ・ムカつく
  • ・苦しい
  • ・辛い
  • ・眠れない 
  • など
  • ※「友達がいじめられているんだけど……」と、他人事に置き換えて暗に相談してくることも

態度・行動

態度・行動は言葉よりもストレス状態が顕著に出やすいポイントです。以下のような態度・行動が出ていないかチェックしてみてください。

  • ・虚ろな表情
  • ・イライラした態度
  • ・落ち着きがない
  • ・目を合わせて話ができない
  • ・声が小さい
  • ・突然泣き出す
  • ・幼児期のような行動をする 
  • など

体調

ストレスが体調にまであらわれるようになったら危険信号です。
精神的に追い詰められた状態にある可能性が高く、何らかの対策を検討すべきタイミングです。

  • ・食欲がなくなって体重が落ちる
  • ・風邪をひきやすくなる
  • ・不眠
  • ・朝起きることができない
  • ・血色が悪い
  • ・肩や首回りが凝る 
  • など

子どものいじめに気づいたとき、親が大切にしてほしい3つのポイント

子どもがいじめられていることに気づいたら、解決に向けて動くのが親の務め。
しかし、対応の仕方を間違えると問題をさらに悪化させてしまいます。感情的になることを抑え、落ち着いて行動しましょう。その際のポイントは以下の3つ。

1.とにかく話をよく聞く

子どものいじめを知ったときに一番大切なのは「とにかく子どもの話をよく聞く」こと。親としては、熱くなって犯人探しに走ってしまいがちですが、多くの子どもはそれを求めていません。不安な気持ちや「苦しい」「葛藤している」ということをまず、誰かにわかってほしいのです。

もしかすると、最初から具体的な話はせず、ただ泣いているだけかもしれません。それでも余計な詮索はせず、隣に寄り添ってその思いに耳を傾けてみてください。そのうち学校での出来事を語り始めたら、遮らずにその話をよく聞き、少しずつ事実関係を整理していきましょう。

2.子どもの気持ちを尊重して動く

子どもの話からいじめの状況を整理できた後、責任感の強い親ほど、いきなり学校に押しかけるといった大胆な行動に出てしまいがちです。しかし、そういった方法で親が介入して事態が良い方向に向かったケースを私はあまり知りません。逆に「いじめの主犯者から“しっぺ返し”にあった」「いじめはなくなったが子どもが学校にいづらくなった」など、ネガティブな結果につながることが多いようです。

このときも大切なのが「子どもの気持ちをよく聞いて動く」ということ。担任の先生に相談してほしいのか、それとも他の心を許している先生に相談してほしいのか、また、どんなことを話していいのか、しっかりと確認しましょう。

また、子どもから「誰にも言わないで」と言われることも少なくありません。こうしたとき、親としてもとても辛いですが、決して子どもを裏切ってはいけません。まずは子どもと親との信頼関係を築くことが大切です。「あなたが辛い思いをしていることに耐えられない」と親の思いを伝えつつ、子どもに寄り添いながら外部の機関に相談するなど、改善策を探していきましょう。

3.子どもの“心の居場所”をつくる

いじめを受けた子どもにとって一番大切なのは、「心の居場所」をつくること。子どもが多くの時間を過ごす自宅は、本当に心の安らぐ場所になっているでしょうか?もしかすると、仕事や家事で忙しくて子どもの話に耳を傾けられていなかったり、また、会社や夫婦関係のストレスを子どもにぶつけているかもしれません。改めて家庭の在り方について見つめ直しましょう。

そのうえで、子どもが「学校に行きたくない」というのであれば、一時的に休ませるというのもひとつの選択肢です。もちろん、学校に行かなくなることですべてが解決するわけではありません。勉強についていけなくなるといった不安も残るでしょう。しかし、心身ともにすり減っている子どもにとって何よりも必要なのは、安らげる居場所で心を休めることなのです。

子どもを受け止める複数のセーフティーネットがいじめを減らす

前述の通り、子どもにとって「心の居場所」があることはとても重要。
家以外にも居場所をつくってあげることで“心の支え”が増えます。家以外の居場所としては以下のような場所が挙げられます。

  • ・課外活動(学校以外の場所)
  • 塾・スイミングスクール・英会話教室・スポーツのクラブチームなど
  •  
  • ・行政機関
  • 文部科学省や法務省、都道府県、市区町村の相談窓口・無料の電話相談窓口、児童館など
  •  
  • ・民間、NPO
    フリースクール・フリースペース、当事者の会・親の会、子ども食堂、交流や農業の体験活動団体など

「親として何ができるか」と考えがちですが、気負いすぎることなく、他者とのつながりをつくり、たくさんの大人で子どもを支えるという環境がいじめ問題の解決にはとても有効です。

また、たくさんの居場所がある環境は、ストレスの緩和にも役立ちます。そして、いじめの被害者を助けるだけでなく、ストレスによって引き起こされる加害行動=加害者を減らすということにもつながるのです。

子どもに寄り添った対応がいじめ問題を解決する

いじめ問題について、報道では痛ましい事件を多く目にしますが、それは一部の情報に過ぎません。子どもの思いを尊重して親と学校で連携し、先生が親身になって対応した結果、解決されるケースも少なくありません。

また、加害者に聞き取りをした結果、ちょっとした誤解がいじめの始まりで、その誤解を解くことで関係が修復することもあるのです。

感情的にならず、親として、ぜひ子どもに寄り添った対応を。
問題と向き合う過程で、親子がお互いの思いを理解し合い、絆がいっそう深まることも多々あります。慌てすぎず、その子に合わせた方法を考えていくことが問題解決の糸口になっていくでしょう。

子どもが安心できる場所や環境をつくることが、大人の大事な役割。子どもが心休まる場所・環境とは何か?改めて自身に問い直してみても良いかもしれません。

 

ライター:下條信吾
企画・編集:児島宏明

須永祐慈

須永祐慈

特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」副代表理事であり、「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」発起人。自身もいじめ被害・不登校の経験者として、体験談に基づき、いじめ問題に関する提言や情報発信を行っている。URL::https://stopijime.jp/