“家具が凶器と化す”。「3ないチェック」で室内の地震対策【災害リスクアドバイザー松島康生氏監修】

2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震など、大きな地震が立て続けに発生している日本。

今後も「南海トラフ」や「首都直下型」など、大規模な地震の発生が予測されています。
いつ起こるかわからない地震から大切な人を守るには、適切な対策が必要。

特に、家族と多くの時間を過ごす「自宅」の地震対策は急務。
そこで今回は、災害リスク評価研究所の代表であり、災害リスクアドバイザーとして防災調査や講演、被災地支援など豊富な経験をもつ防災のスペシャリスト、松島康生さんに、室内でできる地震対策について教えていただきました。

松島康生

災害リスク評価研究所 代表 災害リスクアドバイザー(防災危機管理)、防災計画/BCP(事業継続計画)コンサルタント。1993年~ 朝日航洋株式会社(トヨタグループ)で、国や自治体向け防災コンサルタントとして、地震被害想定調査やハザードマップ、地域防災計画などの業務に従事。2011年 東日本大震災をきっかけに、これまでの技術やノウハウを民間に活かしたいと考え2012年 災害リスク評価研究所を設立。一般住宅や企業向けに災害危険度を詳細調査し、これに適した防災対策のアドバイスや研修などの一連のサービスを開始。現在はテレビ・雑誌などのメディア出演とともに立正大学の外部研究員として活躍している。
URL:http://www.saigai-risk.com/

※以下はすべて、松島さんのインタビュー内容です

 

 

家具が凶器に。震災時の室内の危険

「テレビや電子レンジが“飛んできた
これは、1995年の阪神・淡路大震災のような、直下型地震を経験した人が、当時の様子を語る際に使う表現。

下から突き上げるような強烈な揺れにより、家具や電化製品が飛んだり、倒れてきたり、その力は私たちの想像を遥かに超えます。

報道では家屋が無惨に倒壊したショッキングな映像が映し出されますが、耐震性に優れた現代の住宅であれば、そうした心配はほとんどありません。しかし、傷ひとつない住宅の室内で、“凶器”となった家具により重傷を負ったり、命を落としてしまう人がいるのです。

全体の「4割」は未対策。家族を守るために今すぐ室内の地震対策を

地震の際、室内で被害に遭う確率が高いのは、家にいる時間の長い高齢者や幼児。
大地震が発生すると、平穏だった室内は一瞬にして危険な場所へと姿を変えます。

にもかかわらず、実情は多くの世帯が未対策。
東京消防庁の平成20年の調査によると、自宅の地震対策をしていない世帯は、全体の約4割。「対策をしない理由」の項目をみると、「面倒臭い」「(対策は必要とわかっていながら)先延ばしにしている」「お金がかかる」など、他人事のような理由が並びます。

40代前後の男性の場合、働き盛りで日頃から家にいる時間も少ないはず。しかし、家には妻や子ども、両親やペットがいることを思い出しましょう。大切な家族を守るためにも、室内の地震対策は必要不可欠なのです。

「倒さない・動かさない・落とさない!」室内の地震対策は「3ないチェック」で備える

室内の地震対策をしようと思っても、「どこから手をつけたら良いかわからない」という方も多いのではないでしょうか?いきなり全てを整えようとすると時間も費用もかかりますが、身近にあるものでできる対策もたくさんあります。地震が発生した時のリスクを考慮し、優先度の高い場所から少しずつ対策を進めていきましょう。

室内の地震対策の優先度

  • ・優先度①:キッチン
  • 食器などの割れ物が多く、危険なエリア。地震の揺れで食器類が床に落下してしまうと歩けなくなり、動線が塞がれてしまいます。
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  • ・優先度②:寝室
  • 睡眠中は最も無防備な状態。タンスや本棚が転倒しないように早急な対策が必要です。
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  • ・優先度③:リビングや子ども部屋など(過ごす時間の長いエリア)
  • キッチンと寝室の耐震対策が済んだら、続いてリビングや子ども部屋など、家族の滞留時間が長い居住エリアから順番に手をつけていきましょう。

優先度の次は「どうやって対策をするか」……キーワードになるのは「3ないチェック」です。

「3ないチェック」でリスク予防

3ないチェックとは、室内の地震対策の基本である「倒さない・動かさない・落とさない」という3つの「ない」からできた造語。それぞれどのような対策が必要か、詳しくご紹介いたします。

1.倒さない!転倒防止グッズの使い方とポイント

  • 「食器棚・タンス・本棚」などの転倒を防ぐことで、下敷きになってケガをしたり、動線が塞がれてしまうリスクを回避します。以下のグッズを使って、倒さない対策をしましょう。
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  • ・突っ張り棒
  • 突っ張り棒」は、取り付けが簡単な転倒防止対策グッズ。棚の手前の方に取り付けると、手前側に力が加わり、倒れやすくなります。必ずタンスの奥(壁側)部分に取り付けましょう。また、天井の柔らかい部分に当てると、力に耐えられず天井の壁が壊れてしまいます。天井の壁を手で軽く叩き、天井裏の梁のある部分に設置しましょう。
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  • ・耐震ベルト・耐震バンド
  • 耐震ベルト」は、テレビ・パソコン・冷蔵庫・ディスプレイなどを固定する際に有効。突っ張り棒がうまくつかないものや、重量がある冷蔵庫などの固定に利用しましょう。どちらも穴あけは不要で賃貸住宅におすすめ。
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  • ・転倒防止金具・固定器具(粘着型)

  • L字の金具で家具と壁を固定する「転倒防止金具」は、高い耐震性を誇ります。しかし、壁に穴を開けなければならないため、賃貸の場合は粘着型の固定器具がおすすめ。
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  • ・ダンボール
  • タンスや本棚の上部に「ダンボール」を置くのも、転倒防止に最適です。ダンボールの下に新聞紙や雑誌を差し込んで、天井と棚の隙間を調節しましょう。棚が動かないように、隙間を埋めるのがコツです。ダンボールは潰れない頑丈なものを選んでください。ダンボールの中を重くすると落下しやすくなるため、プチプチ(気泡緩衝材)や紙袋などを入れておくと良いでしょう。
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  • ・転倒防止安定板
  • 耐震補助として、タンスなどの下に「転倒防止安定板」を挟むのも効果的です。
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  • ・紐、粘着マット

  • 大型テレビは倒れやすいので後ろから「」などで固定、パソコンのモニターは「粘着マット」で固定しましょう。

2.動かさない!飛び出し防止グッズの対策とポイント

  • 食器・鍋・フライパンなどの飛び出しを防止することで、落下によるケガのリスクを回避します。
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  • ・耐震ラッチ・打掛(うちかけ)鍵・紐
  • 観音開きの扉が地震の揺れで開くのを防止するには、「耐震ラッチ・打掛鍵・紐」が有効です。耐震ラッチは、揺れを自動で感知して扉をロックします。取っ手の形状によっては紐をかけるだけで飛び出しを防ぐことも可能です。
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  • ・S字フック
  • S字フックはコの字型に加工することで、扉の取っ手をロックできます。取り外しも簡単なので、キッチン上部の棚などにおすすめです。
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  • ・滑り止めシート
  • 食器棚は滑り止めシートを敷くとより効果的。揺れによって食器が外に飛び出すのを防ぎます。また、食器棚のガラスに「ガラス飛散防止フィルム」をつけることで、ガラスの飛散を防げます。

3.落とさない!落下防止策

  • 「壁掛け時計・額縁に入った写真・絵画」などの落下を防止することで、ケガのリスクを回避します。
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  • L字フック・C字フック
  • 「壁掛け時計・写真・絵画」を釘やねじ類に直接吊るして掛けている場合、地震の揺れで簡単に外れ、落下します。L字フックやC字フックに取り替えると落ちにくくなります。また、取り付ける場所も見直し、フック自体が抜け落ちないように厚みのある壁や柱を選びましょう。
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  • ・アクリル製の額縁
  • 絵画や写真などをガラス板の額縁に入れて飾っている場合、ガラスの額縁からアクリル板に変更しましょう。軽くて割れにくいアクリル板にするだけで、落下時のガラスの飛散やケガを予防できます。

ダンボールや紐、S字フックなど、身近な日用品の中にも対策に使えるものがたくさんあります。
お金をかけずにできるところから始め、足りないものをホームセンターなどで揃えていくことで、段階的に、そして確実に室内の安全性が向上します。

一般電話回線のみは高リスク。事前に知っておきたい緊急時の連絡手段

室内の対策とあわせて見直したいのが、震災が発生した際の連絡手段です。
2011年に発生した東日本大震災では、携帯電話の回線がパンク状態となり、家族の安否が確認できないという状況に陥りました。

災害発生時は以下のように状況に応じて連絡手段を決め、電話番号やSNSのアカウントなどを家族と共有しておきましょう。

  • ・フェーズ1:携帯電話がつながりにくい場合
  • 以下、左から右にいくにつれて電話がつながりやすくなります。
  • 「一般電話→ 公衆電話→SNS電話(LINE)→IP電話」
  • 一般電話・公衆電話・SNS電話がつながらない場合、「IP電話」がおすすめ。IP電話は、「050アプリ」と呼ばれるIP電話のアプリをスマホにダウンロードして利用します。事前に家族間でダウンロードしておきましょう。
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  • ・フェーズ2:携帯電話がつながらないが、インターネットやメールは使える場合
  • 携帯電話のショートメール(SMS)・Eメール・各種SNS(LINE、Twitter、Facebook、Google+など)が有効です。可能な限り、家族のアカウントを知っておきましょう。※災害用伝言ダイヤル(171)やWeb171も併用しましょう
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  • ・フェーズ3:携帯電話もインターネットも使えない場合
  • 家族と事前に取り決めた場所に集まります。場所は災害時も安全な場所を選び、例えば公園でも「滑り台の階段の下」など具体的に決めておくことが大切です。また、「昼の12時に集合。会えなければ午後の3時」など、集まる時間を決めるのも忘れずに。

また、自分にもしものことがあったときのために、持病や勤務地、家族構成、緊急連絡先などを書いた「エマージェンシーカード」を用意し常備しましょう。安否確認の他、自分の急病時などにも利用できます。

自分のために、家族のために、今からできること

日本各地で大きな地震が発生するたびに、多くの人が被災地を案じ、復興支援などを行ってきました。
しかし、自分や家族のための災害対策はどの程度できているでしょうか。

働き盛りの皆さんが、仕事などで不在の時に、家族が安心して居られる「自宅」の地震対策は必須です。
年末の大掃除を控えるこの時期は、室内の地震対策や連絡手段について見直す良いタイミング。できることから始め、これまでとは違った安心を胸に、新しい年を迎えましょう。

 

執筆:下條信吾
企画・編集:児島宏明

松島康生

松島康生

災害リスク評価研究所 代表。災害リスクアドバイザー(防災危機管理)、防災計画/BCP(事業継続計画)コンサルタント。2012年 災害リスク評価研究所を設立。一般住宅や企業向けに災害危険度を調査し、防災対策をアドバイスする「災害リスク評価」といったサービスを開始。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など、これまで200以上のメディアに出演し防災についてのアドバイスを発信している。URL:http://www.saigai-risk.com/