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映画から学ぶヒーロー養成講座~かっこいい大人の男とは~

2016/01/28

牧口 じゅん

映画ライター

牧口 じゅん

通信社、映画祭事務局勤務、映画サイトの立ち上げを経て映画ラ…

vol.1 「知性と教養こそが大人の武器 『スティーブ・ジョブズ』」

『007』シリーズのジェームズ・ボンド、『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカー……映画には、実に多くのヒーローが登場します。でも、彼らの中にある英雄の資質は、フィクションの主人公だけに見つけられる特別なものではありません。危機に直面したごく普通の人間がとった勇気ある行動を見聞きし、心震えた経験を持つ人はそう少なくないでしょう。ヒーローの資質、それは“生きる美学”にも通じるもの。きっとそれは、日常の中でも見つけられるはず。このコラムでは、映画を通してよりかっこいい大人になるためのヒントを探っていきたいと思います。

 

今回ご紹介するのは、現代を象徴する実在のヒーローの物語。100年後も、レオナルド・ダ・ヴィンチやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトらと並びその名が語り継がれるであろう男を描いた映画、『スティーブ・ジョブズ』です。アップルコンピューターの創設者であり、一般社会にPCを広めた立役者。彼の功績のなかでも、最も印象深いのが、1984年のMacintosh、1988年のNeXT Cube、1998年のiMacと、伝説的な3つのプレゼンテーション。世界が変わる瞬間の舞台裏を描きながら、彼の才能、カリスマ性、娘との確執を浮かび上がらせ、多角的にジョブズの素顔に迫っているのが本作です。ビジネスマンとしての冷酷さと鋭さ、仲間への意外な友情、娘に向けたとまどいある愛情、捨て子としての孤独感など、マイナス面も魅力的な面もバランスよく写し出し、モンスターとも呼ばれる不世出の天才を、血の通った人間として多角的に描いたのは、『トレインスポッティング』 『スラム ドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督。スタイリッシュな映像の中で紡がれるテンポ良い会話劇は、緊張感もはらみつつ、好奇心をくすぐりながら知的に小気味良く物語を牽引。まるで映画全体で、ジョブズの精神性やセンスを表現しているかのようです。

 

そんな彼の英雄性が、圧倒的なカリスマ性にあることは誰も異論はないでしょう。そのカリスマ性の源を探るべく映画を観ていたところ、それが直感的なひらめきにあることに気づきました。果たしてその源泉は?プログラマーでもデザイナーでもなかったのに、世界は技術者たちではなく、ジョブズを讃えました。かつての同志に「なぜ世界は君を天才と呼ぶんだ」と問われたとき、彼は指揮者・小澤征爾との対話を引用しこう語ります。「私はオーケストラを演奏しているんです、とオザワは言った。僕は指揮者なんだよ」

この会話に代表されるように、劇中、ジョブズはさまざまな相手と、多岐にわたる分野の話題を論じます。彼は決してコンピューターオタクではありませんでした。ストラヴィンスキーの『春の祭典』初演のこと、ナチスの暗号「エニグマ」を解読しコンピューターの基礎概念を作ったチューリングのこと…。まさに、会話から垣間見られる知性と教養の高さこそ、彼が持っていた“ひらめき”という大きな可能性の源泉だったのではないかと思うのです。

 

天才ゆえ、周囲は度を越えた彼の不可解な要求に戸惑いましたが、プレゼンではすべてを噛み砕き、多岐にわたる引用や例えで人の心を捉えたことは多くの人が知るところ。それは、見識の広い者だからできること。つまり彼は“知性と教養を武器にできた男”、と言えるのではないでしょうか。

 

大人の男なら、それらはひけらかすものではなく、日常を豊かに、楽しくさせるものだとわかるはず。40歳を過ぎれば、経験から吸収してきたものがきっと心強い武器になる。今までの自分を信じて、そこから生まれる感性を信じてみることが、まずはヒーローへの第一歩なのかもしれません。自信のない英雄など、いないのですから。

[ストーリー]

アップル新商品の発表会本番40分前。スティーブ・ジョブズは冷たくスタッフに言い放った。「とにかく直せ」。今日の主役のMacintoshが「ハロー」と言わないのだ。音声ソフトは今日の話題の中心でないから省いても大丈夫だという広報担当者に、それならば発表会は中止すると絶対に譲らない。公私にわたるさまざまなトラブルが降りかかる中、刻々と本番の時間が迫り……。

 

[キャスト&スタッフ]

監督:ダニー・ボイル

脚本:アーロン・ソーキン

出演:マイケル・ファスベンダー/ケイト・ウィンスレット/セス・ローゲン/ジェフ・ダニエルズほか

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