冬のヴェネツィアとミラノ

冬空のどんよりとした霧に霞む街。色とりどりだが色褪せて壁が剥がれ落ちた建物がところ狭しと立ち並ぶ。
その建物の間に狭い路地が入り組み、ゴンドラが二艘やっとすれ違えるほどの運河が流れ、その上を小さな太鼓橋がいくつも掛かっている。

 

ロミオとジュリエットの時代から続く、そのままの建物が今でも息づく……。
まるで中世の時代にタイムスリップしたような間隔に陥る水の都、ヴェネツィア。

 

もちろん、車などは通行禁止、というより絶対に車では道は走れず、運河は渡れず、人がやっと通れるくらいで、街全体がまるでテーマパーク。そして、年が明けると一大イベント、待ちに待ったカルネヴァーレ(カーニバル)の季節がやってきます。今年は1月23日から2月9日まで…この期間、街は華やかに彩られます。

 

モーツァルトの時代、それより以前からの建物の間を、一年間をかけて創りあげた1700年代の豪華な衣装を着て街を自慢げに練り歩くヴェネツィアー二(ヴェネツィア人)。それを見ようと世界中から集まってくる観光客で溢れかえります。サンマルコ広場では、衣装の祭典とコンテストが開かれ、それだけでもかなりの見ものです。

 

日本に帰国後、僕のオペラ講座の方々と一緒にカルネヴァーレの季節にヴェネツィアを訪れたことがありました。
この時は、あるご縁でなんと作曲家モンテヴェルディの時代から続き、ヴェルディ、ワーグナーなども宿泊したという最高級ホテル「ダニエリ」に3日間も宿泊出来たのです。
運河からホテルに横付けされた水上タクシーで上陸、かのマリア・カラスも通ったエントランスからホテル内へ入る…
丁重なホテルマンに迎えられ、時代物の部屋の鍵を開けるコツを説明され、やっと扉を開くことが出来ました。
若く美しいジュリエットがはしゃぎながら駆け巡り出て来ても、決しておかしくはない長い廊下。
重厚な時代物の調度品に囲まれて、夢のようなひととき。イタリアにいた頃に何度もヴェネツィアを訪ねたことはありましたが、今思い起こしてもこの経験は素晴らしい思い出です。

 

このときはおかしな思い出も!モーツァルトの時代の服装をした一般の人で溢れる街の中を、ヴェネツィアのオペラ劇場「ラ・フェニーチェ」(意味は「不死鳥」。1996年1月29日に焼け落ちたにも関わらず、正に不死鳥のごとく、イタリアではめずらしく何十年も経たずに再建を果たす。)にオペラ講座の方々を引き連れて行った時のことでした。

 

オペラ観劇へ向かう観客の男女は共にほとんどが1700年代の服装。テアトロの中に入ると、ヴェネツィアの海の色と同じエメラルド色のベースに、宝石をちりばめたような金色の模様と装飾品がいっぱい掲げられた場内。ボックス席には紳士淑女が優雅に扇子を煽り座っていました。まるで映画のワンシーンのようです。
ふ~ん、流石イタリア、ヴェネツィア!と思っていました。
そして、その日の演目は「ロミオとジュリエット」だったので、1700年代の人々が1200年代を題材にしたオペラを観るという、なんとも贅沢で豪華な取り合わせのはずでした。
ところが、劇場中央に下がる大きなシャンデリアとボックスの明かりが消えて、いよいよ幕が上がると、そこに出て来たジュリエットはピンクのパンクのヘアスタイルをしていて、その後に出て来たロミオは、なんとよれよれTシャツ一枚と穴あきジーンズ姿!そのほかのキャストのスタイルも暴走族以上の感じでした。
ミュージカル「ウエストサイド物語」など比ではなく、思わずテアトロの観客と比べて見てしまいました。
お客様が出演者?舞台はパンク?!一体どうなっちゃているんでしょうか?!
そんなことが起こってしまう現代のヴェネツィアです。

 

そしてイタリアの1月と言えば、そう、サルディ(バーゲン)の季節です!
ミラノの有名な高級ブランド街のヴィーア・モンテ・ナポレオーネをはじめ、街中のお店というお店のウィンドウには「サルディ」の赤い紙が貼られます。
高級ブランド街は、サルディと言ってもやはりそれなりの値段は張るものですので、少しリーズナブルなものを、という方にはコルソ・ブエノス・アイレス通りがおすすめかもしれません。
この通りは、両脇と横道を入れると一日がかりの覚悟で見て歩かないと、見きれないほどのお店がズラッと並んでいます。
もちろん、洋服だけでなく靴、時計、リネンなどなどすべてがサルディです。
どれもイタリア製ですから?デザインや色はセンスのあるものが多く、高級ブランドに負けません。
ただ、縫製、色落ちについては、じっくり見て買わないと後で後悔することになりかねませんので、要注意です。笑。
僕はこの時期にミラノに帰るときには、大型のスーツケースをほとんど空状態で持って行き、帰りはスーツケースに乗らないと閉められない、それでも足りず、手荷物に出来そうなものはなるべく手に持って、着れる物は着込んで機内持ち込みギリギリ以上くらい持って帰ります?!それでも足りない時は、仕方がないので郵送してもらいますが…

 

冬はオペラのシーズンでもありますので、寒い季節は、室内がわくわくなイタリアです。

ピーノ松谷

ピーノ松谷

オペラ・リリカポップ歌手・演出家

国立音楽大学卒業。 イタリア国立ミラノ・ヴェルディ音楽大学男声首席卒業。 ミラノ市立音楽院マスターコース修了。 15年に渡りイタリアに住み、ヨーロッパ中で様々なオーディションに合格し、多くのオペラやコンサートに出演。 また、イタリア国立ミラノ・ブレラ・アッカデーミア美術大学舞台美術科修了。スカラ座演目の手伝いなどもする。 在伊中、雑誌「音楽の友」海外特派委員として執筆、その他「グランドオペラ」別冊「太陽」、スカラ座来日プログラム、藤原オペラ、第一線の来日歌手プログラム等、執筆活動もする。   日本オペラ界からの招聘帰国後、昭和音楽大学、日本オペラ振興会(藤原歌劇団)オペラ歌手育成部講師、日本オペラ界の登竜門のコンクールの一つである公益財団法人江副財団リクルート奨学金声楽コンクールに五十嵐喜芳先生から審査委員として要請を受け、7年間審査委員を務める。   現在、声楽家、オペラ総合芸術舞台演出家、PICCOLA BOTTEGA DEL TEATRO(ピッコラ・ボッテーガ・デル・テアトロ)主宰・総監督、STUDIO PINO I (発声、声楽、オペラ、ポピュラー、作曲家別オペラ伴奏法・カンツォーネ、シャンソン等、語学研究所)主宰。ヨーロッパでオペラ、コンサート、近年リリカ(オペラ)・ポップ歌手としてもヨーロッパでコンサートに出演。